戦国時代

□その墓に埋まる骨は・・・
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 武田晴信の槫役板垣信方が面妖な男を連れてきた。
 歳は彼より上か、それとも僅か下なのか…。古いキズとシワとシミのある顔からは判断できない。中肉中背、丸いやや大きめの顔の割に目は小さかった。片方の目には眼帯をしていた。彼の名は山本勘介、武田の軍師となる。


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 武田信繁は夜中、足音を忍ばせながら彼の部屋に近づいていった。

「信繁殿ですか?」
 唐紙に手をかけると中から声がした。
「そうだ、開けるぞ」
 遠慮なしに部屋に踏み入った。

「話があるなら、日があるうちに来たらどうですか?」
「私に敬語は無用だと何度も申したでしょう?−貴殿の話は面白い。それに、夜にしかできぬ話もあるゆえ」
 そう言って、唇を重ねた。
「貴殿はお屋形様の弟君、こんなことせずとも、拙者は裏切ったりなどせぬ」
 醜いともいえる顔を離した。
「ふふ。怪しんでなどおらぬ。言ったでしょう、貴殿の話は面白いと。それに、こっちの経験も豊富だ」
 信繁はするりと自分の帯を解く。
「信繁殿…」
 山本の上に馬乗りになり、無骨な手を取り、はだけた胸に押し付ける。

「初めて会うたとき、私は貴殿に『甲斐に骨を埋めるつもりか?』と問うた。貴殿は『流れ者の骨はどこに流れ着くか分からぬ』そうもうした」
「その言葉、今も違えぬよ。この綺麗な体を貢いだのに残念だったな」
「貴殿に限らず、死ぬところなど分からぬ。だから貴殿の骨がどこに流れ着くのか気になった。私はお屋形様の役に立つものとしか寝ない。その中で興味を持ったのは貴殿だけだ」
 山本の着物を割り、下帯を外していくと陰毛の間から覗く赤黒い物体の根元を掴んで口に含んだ。

「信繁殿!」
 慌てて額を押しやるが、信繁は首を振ると、目を閉じ、舌でそれをなぶった。

 暗闇に、ピチャ、ピチャと、水音が響いた。

「んっ…」
 口の中に広がる苦い味。信繁の白い喉がごくりと鳴った。
 溢れ出る性液を舐めとり、糸を引く赤い舌と上目遣いに見る切れ長の瞳とほんのり色づく肌が、今まで抱いたどの女よりも扇情的だった。

 これまで、女にも男にも溺れたことのない山本が、武家の棟梁である源氏の血を引く貴人に特別な感情がわきそうになる。
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