戦国時代

□誰が為に・・・
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−兄上のためならなんでもする−どんな汚いことでも…



「あ、あんっ…や…あぁ…」

 秋山は、友人である信繁の嬌声を部屋の外で聞いていた。見上げた夜空に月は蒼く冷たい光を放っていて、時々雲に隠れ辺りを闇に閉ざす。


 カタッと、戸が開く音がして、秋山は立ち上がった。
「信繁」
「のぶ…ともか…」
 声をかけるとひどく驚いた表情をしたが、しばらくすると冷たい表情になった。
「兄上には言うなよ」
「言わない。だけど、お屋形様の実弟のお前がすることじゃないだろ?」
「兄上のためだ」
「知ってる。六人目だろ?お屋形様をよく思わない男と寝るの」
「八人目だ」
 感情の込められていない声で言う。

「甲斐に必要だと思うから抱かれてやってるんだ。そうでなければ斬り殺してるぞ」
「顔に似合わず物騒なこって。−歩けるか?屋敷まで送ってやる」
 秋山は手を差し伸べる。
 その手に掴まり、縁側に面した廊下から降りた。
 でん部の痛みに眉をひそめる。
「ありがと、信友」
 ぼそりと呟くと、秋山はうっすら微笑った。



「−信繁、こんな夜中にどこへ行ってたんだ?」
 裏口からこそこそと入ったところを兄に見つかった。
「女のところへ夜這いに行ってたんですぜ、お屋形様」
 秋山はニカッと笑う。
「二人でか?なら構わぬが、どこに間者が潜んでいるか分からぬゆえ、気をつけろよ」
「はい、お屋形様」
 信繁は兄の事をお屋形様と呼ぶ。
 それは、父、信虎が晴信を廃嫡し、信繁に跡目を継がせると公言していたため、信繁を君主に望んでいた家臣に君主は晴信であると知らしめるため。
「信繁、情を交わしたおなごがおるなら、室に迎えるといい」
 お屋形様は信繁を思っていったのだろうが、表情を曇らせる。
「そう…ですね。娶りたい女子ができましたら真っ先に報告しますよ」
 無理して微笑っているのがわかり、秋山は辛くなった。
 信繁は生涯妻を持つ気はないのかもしれない。



−−−−−

「実際どうなんだ?嫁を貰う気あるのか?」
 数日後、信繁の部屋に遊びに来た秋山が問いかけた。
「まぁ、結婚はするだろう」
 そういったため、ホッとため息をついた。
「きになるおなごでもいるか?」
「いないな」
 即答だった。

「どういうのが好みなんだ?」
 秋山は肩を落とすが、質問を続ける。
「俺の好みはお前だ」

「……」
 真剣な表情で言われ、なんと返していいかわからず、ポリポリと頭を掻いた。

(違うだろ?)

 信繁がどんなに恋焦がれても叶わぬ人を知っている。それを見透かして、秋山を困らせる。

「嫁は貰うよ」
「信繁っ」
 パッと顔を上げる。
「俺の子をお屋形様の…次代の武田のために育て上げる」
(あくまでお屋形様のためか)
 秋山はため息をついた。
(もし、愛情が向く先が変わればと思ったんだが)

 秋山は信繁の顎を取り、口付けた。触れるだけですぐに離れると、彼は目をぱちくりさせた。

「信友?」
「好きだよ」
 切なく囁く。
「無理しなくていいぞ」
 信繁は自嘲的に笑った。


−信繁には見透かされている−

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