戦国時代
□たけだ家・出逢い
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−相模と甲斐の国境に十六、七歳ぐらいの少年が立っていた。握った手綱の先には栗毛の馬が、少年に寄り添っている。
「−お迎えに上がりました。工藤殿」
「お主は?晴信公の使いのものか?」
「私の名は、武田左馬介信繁。お屋形様に頼まれましたので」
工藤と呼ばれた若い男は、彼の爽爽とした雰囲気に息を飲んだ。
−天文十一年−
それが、武田信繁と工藤源左衛門との出逢いだった。
−−−−−
「私の時にはぁ、歓迎会などして下さらなかったのにぃ。それともぉ、昔武田に仕えていたものの子というだけで待遇が違うんですかぁ?」
源助は赤い顔をして、信繁に引っ付いた。
工藤を誘って、秋山信友と春日源助の四人で飲み会になった。
「源助、お前、飲みすぎだ。信繁に絡むな」
秋山が杯を取り上げた。
「ひっどぉい、私は信友と違って、信繁殿に会うの久しぶりなのに〜ちょっとぐらい甘えたっていいだろぉ?」
取り返そうと手を振り回す。
「俺だって久しぶりだ」
「そ〜お?」
そういうと、いきなり笑い出して、今度は、秋山に引っ付いた。
「うわっと!離れろっ///」
「隙あり!」
秋山がひるんだ隙に杯を奪い取った。
「おまっ…!」
源助は、酒を注いだ杯を秋山の口に押し付けた。
「うっ、ゴホッ、ゲホッ」
苦しげに咳をする。
「発作かぁ〜?」
「すまぬなあ、すっかりお主のこと忘れられていて」
二人のやり取りを呆然と見ていた工藤の杯に信繁が酒を注ぐ。
「いえ。−二人とも貴殿に気を許しているのがよくわかりますよ」
工藤はうっすら微笑む。
「あぁ、あの二人は新しい武田の礎になる。−そして、工藤殿、お主も」
酒のため、上気した頬、熱い眼差しに、掌に汗が滲む。
「甲斐のためにお屋形様の為に力を貸してくれ」
工藤の頬が朱に染まる。
「あー、また信繁がたらしこんでるぅ」
源助の隙を突いて逃れてきた秋山が信繁に絡んだ。酔ったらしく、顔を真っ赤にさせ、目も据わっていた。
「気をつけてくだせえよ。この顔とこの口の巧みさでお屋形様の事をよく思わぬ家臣を何人虜にしたか」
秋山は、工藤を下からジッとみつめる。
「えぇ〜?信繁殿は私にだけじゃなかったんですか〜?」
源助が秋山と信繁の間に分け入って、ううっと泣きまねをしだした。
「げ、源助?な、泣くな。美形が台無しだぞ」
信繁は、オロオロと、源助を慰める。
「源助、泣きまねをしたって、無駄だぞ。信繁は、お屋形様一筋なんだから〜」
工藤に酒を酒を注ぎながら横目で見た。
「工藤殿もこんな八方美人に深入りしてはいけませんぜ」
秋山が念を押す。
「ひどいな。−工藤殿、酔っ払いの戯言だ。気になさらぬように」
その時の笑みが哀しそうに見えた。