戦国時代
□たけだ家・追放
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−兄上と私は違うのです−
−これよりは、兄上の事をお屋形様とお呼びしなくては−
兄−武田晴信が実の父、信虎を追放したという報せはすぐ届いた。
「兄上…」
(父とは分かり合えなかったのですか?)
「行水してまいる。新しい着物を用意しておいてくれ」
「信繁様…」
兄と父の事を伝えに来た近習が部屋から去った後、信繁は、落ち着いた口調で小姓に命じた。かえって、その者の方が動揺している。
「兄に会うまでは、早まったことはせぬよ」
<わしの跡には信繁が…>
(私は兄上の邪魔になる)
髪を整え、髭を剃った。
(大丈夫、死ぬのは怖くない)
「信繁様、晴信様が参られました」
行水をし、心を落ち着かせ、こちらから出向くところだった。
「信繁?」
改まった様子の弟に晴信はおどろいた。
「兄上、甲斐は貴方を望んでおいでです。私は、兄上がお造りになる国を見られないのが残念でございます」
「何を申しておるのだ?」
「私が生きていては、家臣が割れてしまいます。私は、兄上の足を引っ張りたくない」
「信繁!私に父追放の汚名のほかに、弟殺しの責まで負わす気か?」
「しかし…」
「父は、家督はそなたにと申しておったし、不満はあるだろうが、私を助けてくれぬか?」
頭を下げられる。
「頭を上げてください兄上」
(父上追放の責、私も負う)
兄とて辛くないはずない。そうしなければ本当に父と兄との間で家臣が争うこととなっていた。
(私は、ずっと決めていたのだ)
−兄がお屋形となり、私が助けとなることを−