戦国時代

□たけだ家・天星
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−天文三年 甲斐−


 数日続いた雪のため、地面は雪で覆われていた。
 庭に下りた武田次郎が掌を天に向けて広げると、雪はそこに落ちて消えた。

「☆」

 面白くて、仰向けに倒れた。
 一人、にやついて自分に向かって舞い降りてくる雪を見るともなく見つめていた。

(綺麗−)

 雪の日の静寂。
 体温は冷えてしまっているのに、口内から白い息がはき出た。

(このまま溶けてしまいたい)

 家督を次郎に継がれるものと思っている家臣たちは、自分を褒め称える。皆、父の喚起に触れたくないのだろうが、それが苦痛だった。

(家督を継げるのは兄上しかおらぬ)
 四つ上の兄をずっと慕ってきた。
(兄上は天魁星じゃ)
 以前呼んだ中国の昔話、「天魁星」を思い出していた。一つの星の下に集まる180人の勇士達。

(兄上もそうなる)
 そして、この甲斐は梁山泊だ。

(私は…?)

 もし、父が死んだ後、家臣たちが二つに割れることになれば次郎の思いはよそに戦わなくてはならない。

 次郎は、何かを掴むように手を伸ばした。



「兄上?」
 真上から幼い顔が覗き込む。
「孫六」
 次郎は驚いて目を見開いた。

「冷たいよ」
 小さな手に頬に積もった雪を払われる。
 すでに感覚を失っていて冷たさは感じなくなっていた。また、弟の手のぬくもりも感じなくなっていた。

「中に入ろう?」
 手を引かれ、起き上がらされる。
 立ち上がるのも億劫で孫六がいなかったら、その場から動けなかったろう。 


 −−−−−

 次の日、熱を出し寝込んでしまった。
 日が暮れる頃、目を閉じていたが、兄が来たのが気配でわかった。傍らに座り、額に当たる手の冷たい感触に
「兄上、うつりますよ」
 おもむろに目を開けると、眠っていると思っていた兄は、驚いて手を引いた。

「−孫六にきいた。あのようなことをしたら、馬鹿でも風邪を引く」
−どうして、雪の中で寝ていたのか?と−

「−自分に向かって舞い降りてくる雪は綺麗なんです。まるで星が降ってくるみたいで。−しかし、兄上は絶対まねをしてはいけませぬぞ」
 ほんのり笑って。本当は、あの時から熱っぽかったのかもしれない。
 兄の手を掴んで頬に掌を擦り付けた。

「−私は兄上のことが好きです」
 意外という顔をした。
「兄弟じゃなければよかったのに」
 その言葉の意味をどうとらえたのかはわからない。
「兄上は聡明だから何か考えがあるのでしょう?必要なら私の命を渡します」
 兄が造る国のために。

「−私は、お主が思っている以上にお主のことも孫六のことも頼りにしておるのだぞ」
 優しい、落ち着いた声。

 次郎は額に手を当てられ、目を閉じた。
 立ち上がるのを気配で感じ
「私は、兄上についていきます」
 と、目を閉じたまま静かにつぶやく。


−−−−−

この頃にはすでに信繁はブラコンです

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