豊臣家の一族
□遠い人
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何も持たない伴作が羨ましかった。
あの人には私はついていけないから
始まりは、菊丸を追って入った部屋で。精悍な凛とした青年に会った。細身で色白な顔、おっとりとした眉。戦場を駆けるなど似つかわしくないそんな感があった。
−天正十一年、小牧・長久手の戦いー
「−秀次殿ぉ、戦はどうでしたぁ?」
宇喜多秀家は、三好秀次の部屋を覗き込んだ。
「やあ、秀家」
明るい笑顔でおいでおいでと手で招かれる。
と、秀次の部屋に入ると、見たことのない少年ににらまれた。
「誰ですか?」
新しい小姓らしい少年は、秀家に冷たくきいた。
「その子は?」
全く気にした様子もなく、秀家は、秀次を見る。
「不破伴作だ。先の戦で親兄弟を失ったらしい。だから、私の小姓にすることにした」
役に立ちそうにもない、武士の子とも思えない子供だ。それを側に置くというのか。
「私の名は、宇喜多秀家。戦災孤児か、気の毒に…。お主、いくつになる?」
胸に沸き起こる暗い感情を押し殺す。
「七つです」
伴作は、物怖じせず答えた。
「私より五つしたか…」
「−ということは、秀家は十二歳なのか。−知らなかったな」
秀次の実弟の小吉がいればうんざりするだろう。人の名前も年も役職さえも興味を持たない、彼の欠点だ。