豊臣家の一族
□遠い人始め
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ー天正十一年ー
自室で本を読んでいた羽柴秀次は、猫の声に庭の方を振り返る。
《ニャー》
庭に面した回廊に、白い猫が飛び乗り伸びをした。
伸ばした足の先は茶色かった。よく見ると左右で目の色が違う。
「にーにー」
猫を追いかけてきたらしい童が、手を伸ばし猫を捕まえようとするが、なかなか届かない。
「ほら」
猫を抱え、目の前に差し出す。
「あ、ありがとうございまする」
ほんのり笑った顔が愛らしい。色が白くて女童のように見える。元服してなければどちらかわからなかったろう。
「名はなんと申すのだ?」
「−菊丸…」
「そう、菊丸というのか」
秀次は、童の名前をきいたのだが、童は、猫の名前をこたえた。