豊臣家の一族

□月夜
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−お主が、仙千代の従兄弟の源四郎か。よろしく頼むぞ−

その時の笑顔に魅了された。


天正十四年

障子から透ける月明かりのため、部屋全体が紫色に包まれていた。
夜中、人の気配を感じ、源四郎が目を覚ますと、障子に人の形をした影がうつっていた。
源四郎は、そっと、障子を開けた。

「秀康様。どうかなさったんですか?」
部屋の前の廊下で庭に向かって座っている主の姿があった。月明かりで白く浮かび上がっている横顔を見た。

「月が綺麗でな。お主に見て欲しかったんじゃ」
月を見上げながら言う。
「そんな、もし、私が気づかなかったら、どうなさるおつもりだったんですか?」
「だが、お主は、気づいただろう?」
月を背にした秀康の表情は、影となっていて、見えなかったが、微笑んだのが気配で感じた。

「眠れないのですか?」

「明日、父上が来る」
秀康の肩が小刻みに震えていた。
無意識に手が伸び、その肩を抱きしめる。

「も、申し訳ございません。あ、あの、さ、寒そうに見えましたので」
慌てて手を離す。

「よい、お主の手は暖かいな」
手をにぎって、頬に擦り付けた。

「家康様のこと、気になりますか?」
本当は、心臓がばくばくしていたが、平静を装う。

「私は、家康にどう接していいかわからぬ。私にとって父は秀吉公お一人。他人と割り切っておらねば、恨み言を口走ってしまう」
「だったら、家康公を父と思わねばよろしいではないですか?それか、秀康様が、思ってらっしゃること、すべて吐いてしまわれたら?」

顔を上げた秀康が、真っ向から源四郎を見た。
黒目がちな瞳に見つめられ、源四郎は、鳴り止まぬ心臓をおさえた。
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