戦国時代4
□風邪
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府中にはお屋形様が作った学問所があり、武田家家臣の子弟たちはそこに通って勉学に励んでいた。
「コン、コン…」
本を読んでいた小幡孫次郎は、ふと、微かなせきの声に気づいて、その方を見た。すると、部屋の隅で、同じように本を開いていた三枝宗四郎が口に手を当て、せきをしている。顔は赤く、時々、鼻をすすらせていた。
「おい、風邪なら帰れよ。他の者にうつったらどうするんだ?」
孫次郎は宗四郎の前に立って見下ろした。
『なんだお前…、ほっとけよ』
声は完全に鼻声だった。
「……。寒気は?痛いところは無いか?」
孫次郎は冷静に聞いた。
『寒気は無い。暑いくらいだ!』
意地っ張りで負けず嫌いな宗四郎のこと、弱音など吐かぬと思ったが、強情にも平気だと睨み付けてきた。
(暑いって…。顔赤いし、やっぱり風邪だろ)
「とにかく帰れ。ここにはお屋形様の小姓だっているんだ、そいつに伝染りでもしたら…」
その先は言わなくともわかるだろう。
『わかった』
本意でないとばかりに返事した。
(さてと、平三郎はどこだ?)
宗四郎も彼に送ってもらったほうが喜ぶだろう、そう思って、部屋を見渡したが、見当たらなかった。
(そういえば、いつもなら朝、挨拶しに来るのに、今日は来なかったな)
否、ここ数日顔を見てない。
「おい、平三郎は?」
宗四郎が苦しそうなため、他の者に聞いてみた。
「ああ? あいつなら風邪引いて寝込んでるぞ」
「そう…なのか?」
知らなかったが、宗四郎の状態を見て納得した。見舞いに行って伝染されたのだろう。