戦国時代4

□渡来人
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 山本勘助がそろそろ休もうかと思った時刻、庭の方から人の気配がした。邸には数人の家来はいる。そのうちの一人か…否、殺気が感じられた。


 じっとしたまま動かないでいると、刃が障子紙を突き抜け、顔のすぐ横をかすった。手元を誤ったわけではない。故意に避けたのだ。


「―わしは人の恨みを買いやすい。殺すつもりならば今度は外されるな、信繁殿」
 姿を見てないのに、その者だと確信していた。


「……お主は己が殺される理由がわかってるか?」
 涼しげな声が返ってきた。疑いようもなく信繁のものだった。

「諏訪の姫君のためでありましょう?お屋形様へ側室に薦めたのがわし故」
 重臣たちは反対した。勿論、諏訪の姫も己の父を討ち取った敵の側室になど屈辱だった。

「それは何故だと思う?」
「……」

 諏訪の姫を側室に薦めるのは悪いことではないだろう。お屋形様との間に男児が生まれ、その子が諏訪を継ぐ。血を流さず穏便に侵略できる。

「姫は遺恨を残しておる。そうであろう?」
 信繁は黙っている勘助にさらに続ける。

「お屋形様が寝首をかかれると仰せですか?貴方様にとって何より大事な兄上様が」

 その時、障子が勢いよく開け放たれ、灯火が風に揺れた。
 振り向かない勘助にじれたように足音を立て目の前で袴を払って座った。下唇をかみ締め、鋭く睨みつけてくる。普段、穏やかな表情をしてるため、ひどく迫力がある。このような顔を他の者に見せたことがあるのだろうか?切れ長の双眸に引き締まった眉、鼻筋が通っており、かみ締めた唇は紅く扇情的である。お屋形様の弟であるばかりでなく、嗜虐心を駆り立てられる。
「お屋形様に何かあったら許さない」
 芯のある強い声に体の内がざわめく。
 次の瞬間、腕を掴んで引き寄せ、床の上に組み敷いた。


「何を…!?」
 抗議の声を分厚い唇で奪った。舌を入れ、中を侵略する。信繁のそれを絡めようとすると、逃げるため、口内をよりいっそう犯すこととなる。どちらのものとも知れぬ混ざり合った唾液が口の端からたれた。それを舌先で舐め取り、口を吸った。

「んん…」
 いささか冷静さを取り戻したのか、苦しげに眉間に皺を寄せる信繁は、肩に手を掛け、押し剥がそうとしてきた。
 勘助は身体に体重をかけ、衿の合わせから手を突っ込み、胸に手を這わした。

「んっ…」
 驚いて目を見開き、頭を左右に振って抵抗した。それを離すまいと額を押さえつけ、口付けたまま、片手は脇腹辺りを撫でた。すると、信繁の身体がビクッと跳ねた。その反応が気に入り、そこを執拗に攻めると、力が抜け、眼を潤ませた。


「私を、お屋形様が諏訪の姫を抱くように抱くのか?」
 あの姫も恨みを忘れていない。

 信繁は汚れ物を見るような眼で勘助を見た。その強い眼光が諏訪の姫と重なる。決して屈しまいと、頑固なまでの意思が感じられた。
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