戦国時代4
□温雅
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いきなり耳元でパシンと音が鳴った。しばらくして、頬がじんじんと痛みを訴え、殴られたことが分かった。
「なにしやがる!!俺、なんにもやってないだろっ」
頬をおさえ三枝宗四郎は理不尽さに怒鳴りつけた。殴った当人、小幡孫次郎は冷めた表情をしている。
「今日、朝早く昌胤殿が出かけていった」
感情のこめられていない涼やかな声で話す。
「だからなんだってんだ?俺には関係ないだろ」
全く殴られるいわれはない。
「平三郎と一緒に出かけたんだろ?」
「だからなんだってんだ?」
うーと、牙を剥いた。
「いや、殴りたくなったから」
やはり感情のこめられていない声だった。
*
「宗四郎殿、ただいまー。お土産の団子ですよー」
帰ってきた平三郎が真っ先に三枝邸へ来た。
「別に土産なんかいらない!」
視線をそらしてぶっきらぼうに言った。
無事に帰ってきただけでいいのに、しかし、こう、なにかモヤモヤしたものがつっかえている。
「お団子は嫌いですか?それなら、弟たちにでもあげてください」
そうやって差し出してきた。こんな時、以前なら泣きそうな目をしていたのに意外だった。昌胤の影響カと思ったのだが、一度断ったものを受け取らない宗四郎の性格を読んでのことかとも思った。
「わかった」
ここで受け取らねば子供のようだと思いそうした。
「ところで、頬、赤くなってますよ。また孫次郎殿と喧嘩ですか?」
指摘され、ムッとなった。
(何でみんなして喧嘩だと思うんだ?)
他の者にもそういわれたのだ。
「なぁ、抱きしめてもいいか?」
「え?」
突然の問いに目を見開いた。
「いやならいい。お主には昌胤殿がいるし」
「抱きしめるだけならいいです」
澄んだ瞳を見上げてきた。自分の気持ちを知っているのに、そう答えてくれるのが嬉しかった。
ぎこちなく腕を伸ばし抱きしめると胸の鼓動が激しくて、平三郎の耳に聞こえてしまいそうだった。