忍たま乱太郎
□善法寺伊作の悩み
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ゴリゴリ
ゴリゴリ
「よしっ!出来た」
「一晩中ゴリゴリと何やってんだ!!」
「ぎゃっ…」
新薬完成に歓喜した善法寺伊作は、同室の食満留三郎に枕をぶつけられた。
それに取り掛かったのは、夕食後すぐ。今は空が白ずんで、夜明けを知らせる鳥が鳴いていた。
留三郎が怒るのも無理はない。
「―で、何の薬だ?」
「言えない」
留三郎の血管が切れる音がした。
「テメェ、俺の安眠を邪魔しといてなんだそれはぁ!」
後ろから締め上げる。
「コラッ! 食満留三郎、朝から何を騒いでんだ!」
隣の部屋の潮江文次郎が戸を勢いよく開けた。
「俺のせいじゃねぇ!伊作が一晩かけて作った薬を教えねぇからだ。こっちはおかげで寝不足だってぇのによ」
ライバル意識の強い二人は普段から仲がよくないが、昨晩からのイライラのはけ口を見つけたがごとく一気に言った。
「忍たる者一晩寝られなかったぐらいでなんだ!俺なら三日徹夜しても平気だ。ぎんぎんっ」
「はいはいはい、文次郎の声が大きくて皆が起きてしまったではないか。続きは後にしろ」
文次郎と同室の立花仙蔵が襟首を掴んで引っ張っていく。
「まったく、厄日だ…」
留三郎は頭を抱えた。
*
数日後、結局伊作が何の薬を作ったのかわからなかったが、鏡を見てため息をつく姿を何度か見かけた。
(『俺ったらため息つくほど綺麗…』なんて、思ってるわけねえよなぁ。滝夜叉丸じゃあるまいし)
だとすると、人には言えぬ悩みか?
(だったら、友達として悩みをきくしかあるまい)
「おい、伊作、何か悩みでもあるのか?」
後ろから声をかけると伊作の肩が震えた。
「いや、悩みって程じゃ…。留三郎は気にしないで」
伊作は笑ったつもりなのだろうが引きつっていた。
「俺には言えないのか!?」
自分でも驚くほど怒気をはらんだ声だった。
「うーん…。―新薬開発に失敗しただけ。一晩中うるさくしちゃって、留三郎には言いずらくて。―ごめん」
あの時怒ったのを相当気にしていたらしい。
「悪かったよ。こっちも枕なんか投げつけて」
頭を下げた。
「あれは、僕が悪かったんだ。君が頭を下げることないよ」
ふわりと微笑う伊作の顔が青白かった。
(もしかして、どこか悪いんじゃ…)
何の薬かいえないと言ったのが気になる。
「どうしたの?留三郎」
「あ?」
「突っ立ってないで座ったら?」
床に置かれた円座を示す。
「あぁ」
気のない返事をしていわれた通りにすると、湯気の立つ湯飲みを前に置かれた。
「留三郎や文次郎はかっこいいよねぇ」
伊作がズズッと音を立てて茶をすすった。
伊作にかっこいいと言われ、嬉しく思ったが、文次郎と一緒にされたのには不快感がある。
「男って感じ。腕や脚も筋肉でしまってるし、手もごつごつしてる。僕は、腕も細いし、筋肉つかないし。せめてひげでも生えてくれればいいのにって思ったんだ」
「はぁ〜?」
素っ頓狂な声を発した。
(もしや、あの薬って…?)
それなら鏡を見てため息ついていたのにも納得いく。
「だから言えないって言ったんだ。君に呆れられると思ったから。でもね、僕だって真剣に男っぽくなりたいって思ったんだよ!」
「呆れたと言うより驚いた。―まだ15なんだからこれから成長するだろ?ごつくもなるし、ひげやすげねもはえてくる。人には人のペースってもんがあるさ」
そう言ってなだめた。
「そうは言ってもひげそってる留三郎ってかっこいいよぉ?」
今すぐ欲しいと駄々をこねる。
「……また、新薬作るつもりなら昼間にしてくれよ?」
諦めさせるのは困難と見て念を押しておく。
「わかってるよ。次ぎはしない」
(やっぱりこりてないな)
今度は留三郎がため息をついた。
終
朱華は伊作受けが好きです。相手は誰でも。でも、結構マイナーな文次郎×伊作が
一番です。