足利家の兄弟
□雅
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−1333年−
「ほう、まるで15年前の自分を見ているようだな」
戦場となった鎌倉を抜け出してきた熊若を足利高氏は、蔑んだ目で見つめた。
「兄者の子です。こんなに似ておるではありませぬか!」
直義は、必死に叫んだ。
「私には千寿がいる。どこの女が産んだか分からぬ子などいらぬ。お前にやる」
「兄者は冷たい!熊若がかわいそうだ」
「ふふ、かわいそうか−。お前こそ、そんなに私と瓜二つの童を見て、何も思わぬのか?煮るなり焼くなりなんでもしていいんだぞ?」
(な…!?)
高氏は冷たい笑みを浮かべていた。
−−−−−
「あ…、あ、んん…、はぁぁ…」
暗闇に嬌声が響いた。
月の青い光が、直義の白い肌を映す。
「さ…、さき殿…はやくぅ…」
快楽のため濡れた瞳は妖力でもあるように佐々木高氏を誘う。
「直義殿…」
「あぁ−///」
佐々木が楔を最奥へ打ち付ければ、より高い声で鳴いた。
「熊殿をどうなさるおつもりですかな?」
行為の後、二人裸のまま横になっていた。
佐々木は直義の色素の薄い髪を指に絡めて弄ぶ。
「兄上がああでは私が引き取るしかありませぬよ」
直義は目を閉じ、佐々木に寄り添った。
「いや、そうではなくて、恨み言を晴らしたいとは思わぬのですかな?」
直義は視線を逸らす。
「−恨みをあのかわいそうな子に向けるつもりはありませぬ」
「綺麗な瞳をしていましたな」
目は心を映す。
素直でひたむきでまっすぐな性格をしているのだろう。
「−兄者はおかしい。北条一族が死んで涙を流していた。酒を飲んで夜を明かした仲間だといって」
兄が殺したようなものだ。
高氏は昔から人望があった。特別目を引く容姿でも、弁が達者なわけでもない。それは、天性の光明か。
反対に直義は、一人でいることが多かった。
唯一彼に寄り付くのは佐々木のみであった。
「お主は、兄君のこと嫌ってはないのでしょう?」
掌で頬を包み込んで見つめる。
「−何故でしょうね。兄者の事、恨んでいるのにあの瞳に惹かれるんです」
直義は視線を逸らす。
「強いお人です。そして、弱いお人だ」
幼い頃のあの過ちは、高氏にも直義の胸にも深くしこりを残す。
直義がおもむろに起き上がり、脱ぎ散らかされた着物に手を伸ばすと、佐々木はそれを阻むように手を掴んだ。
抗議し様と睨み付けるが、熱い眼差しを返された。
「高氏殿に嫉妬してしまいますな」
佐々木はクスリと笑い、直義の手を取って口付けた。
「−貴殿は、私が死んでも平気でしょう?」
それでそれが辛いわけではない。非難するつもりもない。
「さあ?しかし、その美しい顔を失うには惜しい」
佐々木は、冗談のように笑っていた−