足利家の兄弟

□雨
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 足利家に伝わる置き文に《七代後に北条家にかわって天下を取れ》とある。しかし、その七代目の家時は、それを実現できず、さらに三代後に託した。
 それが足利高氏だった。


「兄者−、遠乗りですか?私も連れてってください」
 まだ元服前の童子姿の弟が近寄ってくる。

「今日は私一人で行く」
 そういって、馬にまたがると、弟は袴の裾を掴んで、
「次は連れて行ってくださいね」
 本当は、残念に思っているだろうに、かわいらしく微笑む。
 弟は昔から聞き分けがいい。
 かわいいと思う反面苛立つ気持ちもある。

「やっぱり一緒に行こう」
「いいんですか!?」



 ザー…
   ザー…


「あんなに晴れていたのに、ひどい雨だな」
 雨宿りをするため入った洞穴から外を眺める。

「−兄者、もっと奥に入らないと濡れますよ」
 濡れた水干を脱ぎながらいう。
 長襦袢一枚になった後姿の、高く一つにくくった乱れた髪がうなじに張り付いているのを見て、ぞくりと粟だった。

(なんだろう、実の弟なのに、変な気分になる)
 まるで、女に対してのように。
 否、もっと、どす黒いものだ。

「兄者も、着物を脱いだほうがいい…!!?」
 後ろから抱きしめ、唇を奪った。

「はっ、やだ…、兄…」
 抗うが、たった二歳の年の差なのに、力では兄にかなわない。


「なんで?兄者…」
 小次郎は涙を流す。
 散々抵抗した弟の髪はさらに乱れ、紐をといた長襦袢の前ははだけていた。
 兄が何をしようとしているか分かっている。


「あ、やー…」

 ビクン

 そこを口内に含むと、小次郎の体が震えた。

「ん…」

先を舌の上で転がし、根元を指で刺激する。

「小次郎、罵っていいんだぞ、最低の兄だって」
 いっそうそれを望んでいる。

 けれど、弟は首を横に振った。


 イラッ…



 弟の体を裏返しし、濡れた髪が張り付くうなじに噛み付く勢いで口付けた。


「つぅ…」

 女よりずっと細い体を抱きしめる。


 菊座にそれをあてがった。

「兄者…」
 弟は不安そうな表情をして、目を閉じた。

「うわっ…!あぁ…兄者ぁ……」

 甲高い悲鳴に似た声が洞穴内に響いた。

 高氏は獣のように小次郎を攻め秘所をついた。狂ったように何度も何度も。

 気がつくと、白い足に赤い血液が伝い、小次郎は意識を手放していた。

 


「ハハハ…」
 自ら愚かな行為をあざ笑う。


(これで弟は私を見なくなる…)


 満足感と少しの後悔…。

 高氏は弟の肩を優しく抱いた。






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