戦国時代4

□風邪
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 その日の夕暮れ、三枝邸へ行った。門の近くにいた宗四郎のすぐ下の弟の五郎太が声をかけてくる。

「孫次郎殿お久しぶりです。兄なら、学問所から帰ってきてすぐ寝てしまいました。孫次郎殿ならご存知でしょう。昨日は、熱を出して、信竜殿に送ってきていただいて。迷惑な兄ですね」
 はぁと、ため息をつく。
 相変わらず宗四郎に似ず平静で、兄に対して毒舌だ。悪口は言わないにせよ自分の弟と重なって見え腹が立った。所詮、弟などこんなものかとため息が出る。これなら、意地を張るだけの宗四郎のほうがかわいげある。


「じゃあ、これを飲ませてくれ。滋養がつくから」
 そういって、壷を手渡した。中にはハチミツが入っている。

「わざわざありがとうございます。孫次郎殿もお体にはお気をつけてください」
「ああ、宗四郎にはしっかり休めと伝えてくれ」





 朝、目覚めると喉が不調だった。

(いがいがする。身体もだるいし。あの馬鹿の風邪が伝染ったな)
 あきらめて今日は寝てることにした。

(無理に行ったら、お笑い種だ)
 人には休むことを薦め、自分が無理をするなど。



 昼ごろ、額に冷たい感触がして目を覚ました。

「ごめん、起こしてしまったね。孫次郎が熱を出して寝てるってきいたから」
 心配そうな顔が目の前にあった。

「昌胤殿…?」
 熱のせいか視界が揺れていた。

「お主が熱を出すなんて珍しいな。風邪が流行ってるみたいだけど。−昨日、宗四郎も熱を出したって、信竜殿が言ってた。その前に平三郎が寝込んでたし」

「……」

(なんだ、知ってたのか)
 きっと、同じようにされたのだと思う。

「ゴホッ、ゴホッ…」

「大丈夫!?水飲める?」
 体を起こされ、背中を摩りつつ、茶碗を手渡された。

「大丈夫ですから」
 一瞬、うれしいと思った自分が恥ずかしい。昌胤に情けない姿を見せたくない。だって、自分は彼と同等になりたいのだから。



「辛い時は辛いというべきだよ。私はお主の看病ができてうれしいんだから」
 優しく頬を撫でられた。
 昌胤には兄弟がいないため、孫次郎は弟のような存在なのである。


「−平三郎をかまってやってください。あいつは俺よりもずっと素直でかわいいでしょう」
 何より、平三郎は彼を慕っている。

(あれが本当の弟ならどんなにいいか)
 孫次郎は小生意気な弟の顔が浮かんで腹が立った。


「平三郎の風邪はよくなったから、今日は孫次郎の番。それに、平三郎も私に伝染るからと甘えてくれないし」
 はぁと、ため息をついた。
「俺だって甘えないですよ」
 寝具を頭からかぶり顔を隠した。口元が緩んでしまいそうだ。

「うん。よくお休み」
 赤子にするように胸を撫でられ、くすぐったかった。





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