戦国時代4
□風邪
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「ほら、俺が送っていくから、立てるか?」
手を差し出すと、それをじっと見ていた。
「立てないならおぶってやるけど?」
そういうと、勢いよく立ち上がった。起こった風にも見えたが、次の瞬間、フラッと揺れ、倒れると思って手で受け止めようとすると、机に手を突いて踏ん張った。
「まったく、ふらついてんなよ。帰るぞ」
そんなに自分を頼りたくないのか。孫次郎は彼の頑固な性格を知ってるが、ここまで意地を張るとは思ってなかった。具合が悪いときは、誰しも他の者を頼りたがるものだ。
たいしたものだと感心する。
そして、身体を抱えて、歩き出した。
『テメェ、おろしやがれ!!』
じたばたともがくため、落としそうになるが、そこは耐えた。普段からの鍛錬の賜物である。
*
やはり、自分と同じぐらいの重さのものを運ぶのはきつく、壁に伝って歩いていると、前から一条信竜が来た。躑躅ヶ崎の館だ、お屋形様の異母弟で親類衆である彼がいてもおかしくない。
「あれ?孫次郎に、宗四郎、どうしたの?」
そういいながら宗四郎の額に手を当て、熱があるのを確認した。
「三枝殿の邸に運ぶなら某が連れて行くよ。ちょうど昌胤に用があるから」
三枝邸と昌胤邸はすぐそばである。
考える余地も与えられず宗四郎を奪われた。
「あ…」
(いくら側室腹で重臣たちに軽視されてるからってお屋形様の弟にそんなことやらせていいのだろうか?
「こんな馬鹿の風邪、伝染りでもしたら、馬鹿になってしまいますよ!!」
勢いよく奪い返す。
「あはは。けれど、お主が運んでいては、悪化する危険もあるからね」
それは、時間がかかりすぎるという意味なのだろうが、自分が宗四郎に嫌われてるせいとも取れた。
「ですが…」
孫次郎は躊躇した。
「大丈夫だから任せて」
強く言われ、これ以上時間を食っては本当に宗四郎の風邪が悪化しかねないと思った。
(俺に運ばれるより、信竜殿に運ばれたほうが、あいつも借りができたとか、余計なこと考えなくてすむか)
そう思い、信竜に任せることにした。
「頼みます、信竜殿」
(元をただせば余計な意地を張ってるからいけないんだ)
平三郎に心配かけたり、罪悪感をもたれるのがいやで平気なふりをしていたのだろう。
次の日、学問所−
「何でお前が来てんだ!?まだ治ってないだろ。平三郎だってまだ来てないぞ!!」
真っ赤な顔で座っている宗四郎を指差した。
『平気だ』
一言言って手で追い払われた。
「平気じゃないだろ!昨日はあんなにまいってたくせに。声だって…。もお!帰れよ!!」
一気にまくし立てたため、ハアハアと息を荒げた。
『うるさい』
喉が痛いため、一言しか言えないのだろうが、それがいちいち癇に障る。
「もう、勝手にしろ!肺炎になってもしらねぇからな」
こうなれば早く平三郎が復帰して、こいつを説得してもらうに限る。宗四郎も彼のいうことならきく気がする。
(まったく、辛いなら辛いと意地を張らなくてもいいだろうに。この、意地っ張り!!)
心の中で叫んで地団駄を踏んだ。
そして、睨み付けると負けじと睨み返された。
(−違うのか。俺に弱みを見せたくないだけ)
その時、なぜか胸が痛んだ。