豊臣家の一族

□月夜
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「源四郎は?お主は、父と再会したらどうする?」
源四郎の実の父は、家康嫡男の信康切腹の責を負って出奔した。幼いゆえ、捨てられたと思っており、ずっとそれが、心の傷となっている。



「すっかり、冷えてしまいましたね。お送りいたしますから、お休みくださいませ」
「こたえないのか!?」
背中を押す源四郎を睨み付けた。

「私は、恨んでいるわけではありません」

「そうなのか?」

「ええ、私は、そんなにかわいそうな人間ではないのです」
送りますといって、再び背中を押した。

だが、秀康は、その胸に抱きついてきた。
「秀康さま?」
「傍にいてくれ。こんなわがまま、お前にしか言わないんだ。許せ」
「でも…」
躊躇する源四郎の腕を引き褥に入った。

「隣に寝てくれ」
「私は、家人ゆえ、主と同衾するわけには」
「ーそうだな、源四郎は真面目ゆえ、許せぬか」
そう、泣くのを我慢するような表情になる。

(嗚呼、勝千代殿が甘やかしているのを叱っているのに、私は…)



「ひ、秀康様、わ、私には、甘えていいです」
ぎゅうっと抱きしめる。

「源四郎、お前は、離れるな」
「はい、誓います」

仙千代や勝千代には、いえなかったこと。
三河の人質である秀康には、さきがない。
そう、徳川家康が、秀吉の傘下に入るのなら、秀康は要らない存在になる。
それがわかっていたため、彼らと別れた。

「秀康様?」
静かになった主を見ると、規則正しい寝息をたてていた。
(うーん、ここで寝てしまってもいいのかな?)
源四郎は、白い頬に浮き立つ桃色の唇をなぞる。

「欲しいな」
沸き立つ欲望に勝てず、主の唇にそれをほんのわずか触れてみる。


「んん、源四郎」
驚いて体を硬くしたが、目を覚ましたわけではないようだ。寝返りを打って、仰向けになった。また、規則正しい寝息をたてる。

(いいよね、ここでねても)
しばらく、秀康の寝顔を見ていたが、やがて寝入ってしまった。
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