戦国時代2
□―VS―
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お屋形様の使いを終え、そのまま、兄ー飯富虎昌の邸に帰ると、思いもよらぬ客がいて、身体を震わせた。
「待ちかねたぞ、源四郎殿」
「な、何で貴方がここにいるんですか!?―兄も接待なんかして!侍女にでもやらせればいいでしょう」
ものすごい低姿勢で茶を注いだり菓子を勧めたりともてなしている虎昌に向かって言う。
「源四郎、ちょっときなさい」
と、部屋の隅へ引っ張られた。
「どうもわしは、信廉殿が苦手でな。あの笑顔の下に何か人の落ち度を見透かすような、そんな気がするのだ。わしにやましいことはないが。―ま、お主はあの方に気に入られておるようだし、何事も穏便に、あの方を怒らせないよう気をつけよ」
と、小声で耳打ちしてくる。
源四郎はため息をついた。かなり年上である兄が情けない。
人当たりのよい笑顔の下で、人の動向を見逃さないようにしてるのはあくまで信廉自身が楽しむためだ。人を貶めるためではない。
やましいことがないならなおさらだ。
「兄上のご忠告、いたみいります。私だって信廉殿がお屋形様の弟君だという事、忘れてるわけではありませぬ。ご心配なされませぬよう」
「それならよいが、無礼のないようにな」
「虎昌殿」
「は、はい!!」
信廉に名を呼ばれ、飛び上がらんばかりに返事した。一体どんだけびびってるのやら。源四郎は苦笑した。
「まこと厚き心遣い痛み入るが、源四郎殿が戻ってきたわけだし、席をはずしてもらえないか?」
ニコッと微笑んだ。
「は、はいっ! 不肖の弟ですがなにとぞ良しなにお願いいたします」
平伏していそいそと部屋を出て行くのに、一体何の挨拶だと横目で見た。
「―で、信廉殿の方から来られなくとも、俺はたいてい躑躅ヶ崎の館にいるのですよ。そんな急用があるとは思えないのですが?」
信廉の前に置かれた円座に座り、話を聞く姿勢をした。
「源四郎殿を驚かせようと思って。それとも私が来ては迷惑だった?」
下から上目使いに覗き込まれ、ドキッと胸が高鳴った。
「そんな、迷惑だなんて」
焦ってしどろもどろになってしまう。
「だったらいいや。源四郎殿も仲間に入れてあげる」
ニコリと微笑む信廉は、年上なのに可愛らしかった。
信廉のその顔に簡単に返事してしまった源四郎は後に悔やむこととなる。