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□天然で誘う仕草 その1
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「っ・・」

隣に座っていた隆也の明らかに何か起きただろう声に首を其方へ向ける。
向けてみて彼のその姿にギョッとした。

彼はその大きな目を何度も瞬きさせて、その瞳から大粒の涙をボロボロと零していた。
あわててどうしたのか聞くと、阿部は流れる涙を懸命に拭いとりながら瞼を開くのに苦戦しているように見える。

「目、ゴミが・・・」

ボタボタと流れ出る涙は止まるところを知らないと只管に次から次へ流れ出ていく。

取りあえず原因が自分に無いことを確認してホッとはしたが、余りにも痛そうに瞬きを繰り返す様に心配になって、取りあえず瞳を傷つけないようにと、目元を擦る手を掴んで止めた。

「ちょい、見せて」
「ん・・・はい。」

大人しく目をつぶって上を向く様がキスをねだっているようで、多少ムラッとしたものを体に感じながら隆也の頬を包み込むように手を重ね、親指で目じりを触りながら開けてという。

さすがに閉じられた瞳にゴミがあるか確認することは出来ない。

目を開けた途端ボロリと零れる涙が俺の親指に塞き止められて流れずに終わる。

「あ、睫毛はいってる。」

真っ黒の目に真っ黒の睫毛で多少見難かったものの、ゆらゆらと漂う其れを見つめて隆也に報告をする。
彼はやはり涙を流しながら、「とって。」と更に顔を近寄らせた。

「ん、動くなよ」
「はい」

内心ドキドキとムラムラした感情が止まらないが、其れを理性で押さえつけて涙で濡れた親指で目じりを引っ張った。

傷つけないように注意しながら指先で触れて如何にかとろうとしたが取れる気配が無く、それにどれほど力を入れていいのかわからず悪戦苦闘する。
不安げに寄せられた眉にどうしようかと考えて、目の中で揺れる睫毛を見つめた。

「ちょっとがまんしてな。」
「?、はい」

あ、っと思い出した方法は此れしかなかった。
というか指で取れなかったら目薬指すとかしか思いつかないが生憎目薬は持っていないので本当に此れしかなかった。
やましい気持ちがあったかといわれれば多少はあったかもしれない、

その涙で濡れた瞳に唇を寄せ、舌で舐めてみる。

『あ、やっぱしょっぱい』

当たり前のことと思うかもしれないが、実際本当に舐めてみて得られる感覚と言うものがあるのかもしれない塩辛いその感覚に感動に近い感情を乗せてみる。

実際やったのなんかもちろん初めてで、本当に取れるか不安だったが案外やすやすと取れたらしく、隆也の顔から遠ざかった跡口の中から睫毛を出して確認した。

「ん。取れた。」

心なしか彼がぼんやりしているのは絶対といっていいほど先ほどの行動のせいだろう。
暫くした後に真っ赤に染まる顔、ゆっくりとした手つきでその目をふわりと覆った姿が照れているのかやけにおどおどとした動作をしている。

「もう痛くない?」
「あ・・・はい。」

親指の腹でもう一度目じりをなでてやれば、飛び上がるように揺れた肩が直ぐに下がって顔を俯かせながら頷いた。やっぱり照れているんだろう、どうしたらいいのか解っていないのが良くわかる。

「じゃ、よかった。・・・ところで隆也」
「あ、ありがとうご・・・え?」
「キスしていい?」

キョトンとする彼が先ほどよりも数段と顔を真っ赤に染めて目を見開き、「え」とか細い声で言った。

正直言ってこんな可愛い彼の姿を見て、キスをねだられるように顔を向けられて『ゴミを舐め取る』に治まる気はしていなかったので、まぁ、仕方が無い。
あとは彼がどのような返事をするかによるのだろうが、大体嫌がるどころか更に可愛い顔をして頷いてくれる。

「・・・どーぞ」

やっぱりな、と思惑通りに言ったことに喜んだ。
思惑通りなんて余裕ぶっていても心臓はバクバク煩いし余裕なんてこれっぽっちも無かったけど、流行る体を押さえつけてゆっくりとその細めの肩に手をのせる。
頷いた跡にとろりとした目と赤く染めた頬で唇を差し出すようにして上を向く、
やはり先ほどの感じと似ていたが色気の度合いが違っていて、まるで暗示にかかったかのように顔を寄せた。

そのままゆっくりと重ねれば瞳も其れにあわせて閉じられ、俺が満足する長い間彼は其れに付き合ってくれて、苦しげな声や交ざる二人分の吐息が空気を濃くする中で続けられた。

「ありがと」

ちゅっと音を立てて唇からはなれ、もう一度まだ赤みを帯びている目をついばむように口付けて楽しみながら、
これがゴミを取った代償だとしたら幾らでもとってやりたいなんて彼が聞いたらバカですねと笑いそうな事を頭の片隅にぼんやりと思った。

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