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□布の檻
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時計の針が5時をさしている。外はまだほの暗くて部屋の中は真っ暗で、そんな中阿部は静かに目を開けた。
裸でかきわけるシーツの中はとても気持ちよくて心地いい、起きたばかりなのにもう一度眠るのはたやすいことだ。
睡魔に導かれるままに、もう一度寝ようとそう決めて寝返りをうつと隣にいたはずの島崎の姿が無いことに気がついた。

「・・・?慎吾さん・・?」

痛む体に顔をしかめながら上半身を起こして島崎を探す。
が、彼の影が見当たらなければ返事も呼吸音もしない。
不安になり、電気をつけようと床に足をつける。
裸のためシーツでも引っぺがしてまこうとおもったが、たいして寒いとも暑いとも感じない室温は風邪の心配も無いだろうし元に戻すのがめんどくさいと一糸纏わぬ姿でベットから降りた。


「慎吾さん?」

もう一度名前をよんだが返事が無いことで、阿部の不安は増していく。
もう覚えてしまった電気の場所へいき、ぱちりとスイッチを入れて電気をつけた。
明るくなった白い壁の部屋には島崎の姿は無く、どこかへ行ってしまったのだろうかと居間に続くドアに手をかけた時、ドアノブは自分が力を入れるよりも早く下がった。

「あ」
「ん?わ、・・・隆也・・・。」

ドアがあいて入ってきた島崎が、あけた前に立っていた阿部に驚き、名前をよんだ後何故そんな格好でと続けられる。
何も言わない阿部だったが、気にした風もなく島崎がドアを閉めてもう一眠りしようかと困ったように声をかけた途端、阿部は電気のスイッチを消し島崎の手をぐっと握って半ば引きずるようにして歩きだした。
島崎の静止の声など聞こえていないといったようにスタスタ歩き、ベッドの前まで来た時島崎の手を離して代わりに力をこめて後ろから押す。

「え、とっ!」

倒れこんだ形で沈む、ベッドはギシギシと悲鳴をあげていたが其れを気にすることなく、阿部はその上から覆いかぶさった。
襲われているようだと冷静に思いながらも、島崎は阿部の行為に少しながら驚く、だが頭を胸部にあてて擦り寄るその姿に意図せず頭を撫でた。

「どうした?」
「・・・いえ・・・」
「吃驚したの?」

子供にするように頭をなでながら、子供にするように声をかけて、大切なモノを慎重に扱う自分に壊れ物のように扱うってこんなものだろうかと島崎はふと思う。
しばらくうつむいたままだった阿部は、ゆっくりと口を開き、またゆっくりといいはじめる。島崎はそれにただ、静な相槌を返していった。

「・・・何時も起きると居るくせに、あんたがいなくって」
「うん」
「呼んでも返事ねーし・・・」
「うん」
「部屋の中にも・・・」
「うん」
「・・・で・・・」

撫で続けるその掌は阿部の心を落ち着かせていく。頷くだけのその声にもひどく安心して、もっとほしくて覆いかぶさった体勢のままもっと密着するように擦り寄った。
薄く開いた唇は言葉をどうやって上手く紡いでいけるかを迷っているようにたどたどしい言葉を吐いて、島崎は其れをしっかりと聞き取る。耳を澄まして、頭を撫でて、ただただ相槌だけをうって、それは愛おしそうに阿部を見つめた。

「で・・・寂しくて」
「・・・ん」
「どっか、いっちゃったかと思っ・・・て・・・。」

阿部の目から涙が落ちるのを島崎は彼が擦り寄る場所がじわりとぬれた感触で判った。撫でるのを止めて今度は強く抱きしめてやる。

「そんなことしないよ。」
「わかんない・・・し」
「しないよ。」

だって好きだから。

そう自信に満ちた声でそういう島崎の顔を阿部は見ることは出来ない。
何度泣くところを見ても泣き顔は見られたくないと何時も自分からは顔を上げないのだ。
其れをわかっているから島崎は安心させるように優しく阿部の頬に手を添えて自分にその目が向くように、その目が自分を移すように顔を上げさせる。
そして安心させるような声をだした。

「不安だったら」

島崎は阿部から片手を離してシーツを手繰り寄せたあと端を持ち、シーツに巻き込まれるような形でベッドの上を転がった。
覆いかぶさるように抱きついていた阿部を下にして、島崎は笑う。

この方がやはりしっくりくると。

目をぱちくりさせている阿部の頬に口付けをおとしてにこりと笑った。阿部の顔が赤く染まっていくのが手に伝わる熱でもわかる。


「寝るときはこうやって捕まえておけばいいよ。」
「・・・。はい。」
「あ、そのかわり」
「え?」
「俺も阿部君を捕まえておくけど、いい?」

阿部は島崎の言葉に少しの間きょとんとしていたが、理解すると安心した顔で笑った。

幸せそうに笑う阿部を見ながら、島崎は心の底から良かったと阿部にゆっくりキスを落として二人を伝う温もりからか、安心からか阿部はゆっくりと目を閉じて島崎に腕を絡ませながら眠りに落ちていった。

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