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□冷たい体と温かい頬
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外は雨が降っている。島崎はカーテンの肌蹴ている部分から暗い空を見た。
近々来るだろう台風で風が強く雨は窓を激しく打つ、耳障りなソレにテレビの音も聞こえないと音量を上げた。
ピンポンと一度だけチャイムがなって、「誰だよこんな日に」と出るのを面倒くさがったが結局のそのそと立ち上がり玄関へ向かう、一度しかならないチャイムにまさかこんな天気の悪い日に悪戯じゃないかと不振に思った。

「はい」

相手を確かめもせずに玄関を開けたが特に人が見当たらず、本当に悪戯なのかと眉を寄せた。
とりあえずそのまま靴を引きずりドアの外に出て辺りを見回す。奥の階段を下りていくような人影が見えてぎょっとした。

『あれは・・・』

見覚えのありすぎる後ろ姿に靴を禄に履かないで後を追いかける。
部屋の中は温かく薄着だった。
肌寒くなってきた季節、さすがに上着無しでは寒い、早く部屋に帰りたいところだがあの後ろ姿が見間違い出なかったらと考えると部屋の中で暖まっている気分にはなれなかった。

階段を一つ下りたところで先ほどの人影が確認できて、島崎は手を伸ばして手首を掴んだ。
危うく踏み外すところだったと階段にギリギリ乗っている軸足を見て思う。
掴んでいた手首をひけば釣れるように本体が付いてきた。それは島崎が思っていたとおり知っている人物でびっしょりと塗れている体と冷たい手首に冷え切っているだろう体を想像してため息が漏れる。

「なにやってんの?隆也」

それまで目を合わせようとしなかった阿部が名前を呼んだからか顔をゆっくり動かして島崎へ向ける。
唇が紫気味に見えてやっぱり寒いのだろうかと島崎は自分の手を阿部の頬へ当てた。やはりヒヤリと冷たい。
とりあえず部屋に連れて行こうと手を引いて自分の部屋へ戻る、腕を引かれている彼ははいたって無抵抗だ。
外と違って温かく保たれた其処は大げさに言えば天国だろう、そう思いながら濡れている阿部にタオルと着替えを渡して洗面所へと押し込んだ。いくら暖かい部屋でもさすがに全身びしょ濡れでは寒いだろう。

その間に牛乳を鍋にいれて彼は猫舌だから(本人は否定しているが)そんなに熱くないようにと注意して沸かし、カップに注いでテーブルの上に置いておく、その時カチャリとドアノブを捻る音がして島崎はそちらを見た。
一度テーブルの上に置いたカップを持って阿部に手渡す。

「熱くないから」

その言葉を確かめるべく、阿部は少しだけ舌を出して受け取ったカップの中の牛乳を舐める。安全と判断できたのか今度はちゃんと口をつけて飲みだした。

「なにやってたの?」

カップから口を離した阿部にもういちど先ほどと同じ質問をした。阿部はそれに眉を寄せて言いにくいのかもう一口牛乳を飲む。
コクリと音をたてて飲み下すと始めて口を開いた。

「一回、押して出なかったら帰ろうって思ってたんです。」

阿部の言葉に、チャイムの音を無視して阿部が塗れたままで捨てられた猫のように歩いて帰るようなところを想像して、そんな寂しい思いをさせないですんでよかったと胸をなでおろす。
しかし、何故いきなり・・、そう考えてちらりと阿部を見れば俯いた顔が丁度上げられて目があった。

「今日家に誰も居なくて、雨が煩くて・・・その・・・。」

ちらちらと島崎を見てくる阿部の顔が赤く染まっていく。
島崎はなるほど、と理解してとても愛しいモノを見つめるような瞳でにこりと微笑んだ、彼はつまり、

『つまり、怖かったんだな・・・。』

表情と言葉で大体のことは把握できた島崎は変わらず笑って阿部の頭を優しくなでる。
冷たい肌の感触に冷え切った体を思い出して、とりあえず風呂かと島崎は立ち上がった。触れていた掌が離れがたいというように躊躇い、同時に阿部も「あ」と切なげな声を上げた。
お互いの反応に思わず笑ってしまう島崎はきょとんとしている阿部を引き寄せてぎゅうっと音がしそうなほど強く抱きしめる。

「し・・」
「あ、一緒に風呂入る?」

いい雰囲気ついでに耳元でそう提案してみれば阿部の体温は急激に上昇し、島崎はにやりと阿部をからかうような笑みを浮かべる。
其の表情が見えない阿部は知ってか知らずかムッとした顔をして島崎を放そうと肩に手をかけた。

『2人なら怖くないでしょ。』

そう思いながらもけして口には出さない。
その代わりに強い力で自分の存在を与えるように強く抱きしめる。

いつの間にか緩まった抵抗、肩を押した手はゆっくりとした動作で背中にまわった。

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