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□明日は明日だと教えて
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膝の上にごろりと横になった阿部を島崎は珍しいという顔を隠しもせずに見つめた。
腕を島崎の腰に回してソファに横になるのと一緒に島崎の足を巻き込むように頭を膝に乗せている。

「・・・珍しい」

嬉しそうに顔を綻ばせ、頭を撫でながら思ったことを率直に口にすれば阿部の無表情だった顔が次第に熱を帯びていく、可愛いというと怒るから島崎は出そうになった言葉を飲み込んだ、代わりに愛しげに見つめる。

「・・・ちょっと」
「ん?」
「いつもと違うこと、しようと思って」

意味がわからないと首を傾げるが今はそれ以上かえってこなかった。
そのうち話し出すだろうと頭を撫で続けていれば、島崎の思惑どおり阿部が口を開く。

「・・・明日になったらまた今日が始まるんだと思ったら、昨日と違うことしないとって思ったんです。」

やはり意味がわからなくて島崎は阿部をじっと見つめる。
阿部は数学的に物事を考える癖に、たまに小説にでも出てくるような言葉を言い出したりする。それが良くわからなくて困ったりすることも多いが阿部のそういうところも島崎は好きだった。
判らなければどういうことか聞けばいい、何も言わなくても話を進めていって結局阿部の言おうとしていることがわかったりして、島崎は其れが楽しいのだ。

「叶うなら、明日もこうしていたいんです。」

回された腕に力が込められる。

「ずっとこうしてれば同じ毎日になると思うんです。だからまだ変われるうちにもっと近くに行きたいんです。」
「隆也」

悩みを打ち明けられた神父のように阿部の言葉を遮る島崎は、阿部の唇を指先でなぞりながらなぞなぞが解けた子供のような気持ちでいつもの阿部にだけ向ける優しげな笑顔を浮かべた。
阿部が言わんとしていることはまだ全てわかったわけではないが島崎の中では十分満足いく結果が出たらしい。

つまり

「俺のことすっごい好きなわけだ?」
「・・・・・・」
「違う?」
「・・・そう、です・・・けど・・・」

島崎の出した答えに赤くなり肯定する。
自分の言っていたことのなんと恥ずかしいのだろうとこの時点で阿部は気が付いて其れよりも更に赤くなった。

『・・・か・・・かわいい・・・』

恥ずかしさに染まった顔を隠す為なのか、否、半ばやけくそなだけかもしれないが抱きついていた島崎の腰に顔を見られないようにと押し付ける。耳まで赤いため赤くなっている事実を隠すことは出来ていないが自分の視界に島崎の目を捕らえない事が最優先されているようだ。
しっかりと抱きつく阿部になんとも言えない愛しさを感じて、しかし腰に抱きつかれては抱きしめ返すことも出来ないから頭を撫で続ける。

しばらくして顔を上げた彼はやはりほんのりと赤いようだったが、気持ちは落ち着いたのだろう、島崎をじっと見上げ二人の視線が交じ合うと阿部の瞳に何かを悟ったのか、撫でていた手を止めて阿部に見えるよう少し高い位置で手招きをした。
その手に導かれるように起き上がり正座に近い状態で座るとぽかんとした顔でその状態から動かなくなる。
その様子に苦笑して手招きした手を阿部の頬に添え、そのまま後頭部に滑らせて固定すると口付けをした。引き寄せてやっと島崎から阿部を抱きしめる。

「今、俺も隆也の事すごい好きだけど、明日はもっと好きになってるかもよ?」

島崎がそういうと苦しいのか身動ぎをしていた阿部がぴたりと止まって腕の中で島崎を見上げた。

「・・・わがままいってもいいですか?」
「どうぞ。」

躊躇うように開かれた口に島崎はにこりと優しく笑う。

「・・・・ずっと一緒にいたいって・・・言っても?」

不安も喜びも無い無表情で真剣に聞いてくる阿部に苦笑をもらして島崎は流れるような自然な動作で口付けた。

「よろこんで」

島崎がそういった途端にグルリと反転した視界に阿部は驚きながらも島崎から目を離さない。
ソファに埋もれるように倒れた二人はお互いを愛しむように優しく触れ合った。


まずは指を絡めて唇を重ねて望む希望に・・・。

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