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□彼の向くところ
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「・・・」
「隆也、元気ないね?」

曇った空のように濁った空気を出しながらモヤモヤと何かを考えている風な阿部に仲沢は心配そうに声をかけた。
そういわれた阿部は首を振ってそんな事は無いと表すけれどいつもより明らかに落ちた肩とか伏せられた目とか、多いため息とかが気になって、意を消してもう一度聴くことにした。

「慎吾さんとなんかあったの?」

絶対無視できないだろう名前を出せば案の定ピクリと反応する彼を可愛いと思いながら仲沢はテーブルの上に頬杖を付き阿部に目を向ける。
冷蔵庫から出した缶の100%オレンジジュースを飲み、阿部の返答を待つが彼の目はその名前を出すのはずるいという気持ちを思い切り浮かべて、少しすねたような顔をしながら仲沢と同じメーカーのアップルジュースに口をつけて気を紛らわすような仕草をした。

仲沢は阿部が好きだ。もちろん愛する方の好きでいつでも阿部を見ていたし、いつでも彼のことを考えていた。
しかし、阿部は仲沢の先輩である島崎と恋人関係にあって、せめて側にいるだけでもと告白せずにいる。否、島崎から阿部を奪う機会を狙っているといってもいいのかもしれないが・・・。

「・・・慎吾さん、彼女いた・・・のかも・・・。」

其れを聴いた瞬間仲沢は長い間思考が停止した。理解するのにたっぷり数十秒必要とし、大きな声で訳がわからないという声をだす。

彼女がいた、隆也がいるくせに浮気をしたと言うことだろうか、それとも元々いたのか?
あの人は確かにタラシだったがまさか隆也がいながら?

島崎は仲沢が彼に想いを寄せている事を知っている。その上での事なのかと仲沢は島崎を思い浮かべながら考え、そして怒っていた。
信じられない訳ではない、信じたくない、彼女がいたことじゃなくて彼を傷つけられる事が、だ。
今この場にいないが高瀬に言ったら同じことを想っただろうと仲沢は持っていた缶を強く握る。
対して硬くもない缶はベコッと音を立ててへこんだ。

俯いているが泣いてしまいそうな顔が見えて慌てる。
泣かないでと心の中で訴えるが声に出したら泣いてしまいそうな気がしてなにもできなくて、無力な自分に腹が立った。

『俺を好きになって、絶対泣かせないから』

いまなら伝わるだろうかと考えて喉まででかかったが言うのをやめる。目を硬く閉じ振り払った。
今告白をして阿部が仲沢から距離を置くようになれば、彼はきっと誰にも言わないで色々な事を溜め込んでいき、一人で悩み続けることを仲沢はわかっていた。
阿部の心は島崎のものだ、それがわかっているから振り向くわけがないと知っている。
阿部はピクリとも動かずに俯いたままだ、手を強く握り締めているのがわかってどうすればいいのかわからなくなる。困っている仲沢を阿部がくすりとわらった。
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