series SxA(first love)

□その罰は相応の罪の下にある
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ポタポタと頬を伝って床に流れる雫を見た瞬間やってしまったと、頭を金槌で叩かれるくらいのショックを受けながら大切な試合でフライを取り損ねた時くらいの後悔をした。

「・・・っく・・・っ」

声を殺して泣くのは俺に聞かれたくないからだろうか、
顔を隠して泣くのは俺に見られたく無いからだろうか、
怒っているのか、悲しんでいるのか、

たぶん、どれもだ。

この涙は情事の時流すようなものではない、それだったらどんなに良かったかと不安げに身を屈め彼の顔を覗きこみながら思う。

「隆也?」
「・・・・・・」

呼んでもピクリと反応するだけでいっこうに顔を上げる気配は無く、


そもそもだ、こうなったのは何故だ、と聞かれれば俺のせいという自覚がある。
隆也と付き合い始めてから女の影を見せず、友人にどうしたんだお前は呼ばわりされるほどパッタリと音信不通になった俺を、昔の(体だけと思っていた)彼女は激情して襲ってきた。

忘れられなくしてあげる。
とか熱烈に言われたが、そもそも既に彼女の事など眼中に無いし、覚えていないほどだったのでやる気が無い感じに断ったら何故か燃えたその女は俺の首筋に跡をつけ、香水の匂いを擦り付けて終いには背中に其の鬱陶しく長い髪の毛まで残してくれたわけだ。

結局未遂で半ば逃げるように帰ってきたわけで、
こう聞くと俺に非は無いように聞こえるかもしれないが・・・。

香水だけでも落とそうと思ったら落とせたはずなのに、隆也は淡白だから気にしないだろうと決め付けて会うのを先に優先した結果泣かせてしまったわけだ。

「慎吾さん・・違う匂いがする」

擦り寄ってきてそう言った隆也のあの不安げに揺れた瞳と震えた声が忘れられない。

因みに言えばこの唯拳を握り締め下を向いて、顔を隠し泣く彼の姿は一生目に焼きついて離れないのではないだろうか、と思う。

俺の首筋に付いた赤い跡、シャツに付いた化粧とか、絡みついた長い茶髪の毛、一つばれたら芋ずるしきにというのはこういうことだろう。

このほぼ絶望的な環境を打破する術があるのだろうか、
謝るのは逆効果な気がするが他にどうしろと言うのだ、言い訳を言うのは見苦しい気がしてただ不安そうに隆也を見つめる。


「うぅ・・・」

ガシガシと目元を袖で拭うので赤くなってしまわないように其の手を止めた。
大きく揺れた体で視線を俺の方に向けた彼はポロポロと涙を零しながらまた隠そうとする。

今度は俺が腕を持っているので隠すことができないようだが、空いている手で掴まれている手をどうにかして外そうと俺の胸を押した、ように思えた手がしっかりと服を握りこんで力を込める。
其の瞬間何か言わなければいけない気がしてただ脳内をさ迷った結果

「ごめん」

結局これだ、謝るしか術は残されていないのだったら、
それで彼が泣き止むのだったら悩む事などないと頭を下げた。
ただ、後者は確実ではないため不安だ、もっと泣いてしまったらどうしようと更に不安が積もる。

今まで声を押し殺していた隆也はしゃくり上げようとする喉を無理やり止めようとして更にひっくひっくと息が詰まっている。
掴んでいた手を離し、おずおずと伸ばした手で背中を摩ってやると少しはマシになってくるようで、彼はふっと息をついた。

「ごめん・・・。」

もう一度謝れば隆也がゆっくりと顔を上げる。
揺れて涙で光る其の黒い目が綺麗だと思うのは不謹慎だろうか、

そうこうしているうちに服を掴んでいた手が離れていく、
残念に思いながら不安げに彼を見つめる事しかできない俺は凄くこの子が愛しいと思っているんだろう。

言い訳も口に出来ない浮気(じゃないけど)は初めてだった。

「い・・んです。」

ぱくぱくと動かす口数より出る言葉は少ないように思えた。
聞こえないくらい小さいのか、それとも喉の奥でつぶれてしまって音にならないのかはわからないけれど全て聞き取れないのが残念だと思う。

「だいじょ・・・ぅ」

止まっていた涙がまた流れ出した。
限界まで我慢したのかもしれない、ボロリと其れはさっきにもまして大粒の涙だ

「大丈夫じゃ、ないだろ」
「・・・っく・・・」

抱きしめてやりたかった。
でもこの体で抱きしめたりしたらまた最初のようにどうしようもなく泣いてしまうのではないか、

そう思うと早く風呂に入って着替えて、彼を力いっぱい抱きしめたい衝動に駆られた。
でも泣き続ける隆也をそのままにしておく事なんて出来るわけが無い、なにも出来ずにただ不安になるしかできない自分が本気で情けないと思った。

不意に隆也が真っ赤にした目を細めて、目は涙をボロボロ零しているというのにフッと笑った。
其れに驚いて思わず濡れた頬に手を当てる。
彼の笑う顔が貴重なのではないかと思ったのは久しぶりだ、付き合ってからは良く笑う子だと認識を変えたから、泣いている彼が笑うのがたった一瞬の間に凄く久しぶりで、凄く貴重で、酷く懐かしく思えた。

「慎吾、さ・・が辛い顔、して、どうすっ」

切れ切れだけど確かに聞こえた言葉に情けない顔していたんだろうとすごく照れくさくなる。
ごめんとまた口癖になってしまったように謝れば、隆也は首を振って手で涙を拭う。

「訳、話し・・・くれますよね?」

まだ少し残っている涙の後を親指でそっと拭って頷いた。
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