series SxA(first love)

□突然のcall Said-A
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肌寒くなってきた季節にしては暖かい日、前々から今日は部活が無い事を知らせてあったため慎吾さんの家へ行くという約束をしていた。

ほんわかとした何時もの気まずくない沈黙、雑誌を開く音だとかが聞こえる中でたった一言、慎吾さんの急に発せられた一言が空間に一つだけ置かれたように頭に残る。
最初理解できなかった頭がぐるぐると廻って脳に残った。何度も何度も、言われた言葉が繰り返し巡った。

鳴り響く自分のうるさい心臓の音と、目の前に優しく笑っている慎吾さん、大きい手が俺の頭を撫でて、今だなれないその感覚だけでもただでさえ戸惑ってしまうというのに彼の格好いい顔が、弧を描いている唇を動かして、俺の好きな声でそう言った。

『この人は俺を殺す気か・・・っ』

そう思ってもきっと間違いじゃない、だって許容量オーバーだ、生き物の心臓が脈打つ数が決まってるというなら彼は俺の寿命を奪っていっているということになる。

だからといって離れるわけじゃないけど、この鼓動の早さを聞けばこの気持ちに逆らえる気がまったくしないわけだし、
今だ正常に戻らない心拍数、もしかしたら聞き間違えかもしれないと聞き返すけど、先ほどとさして変わらない笑顔でにこりと彼は優しく笑って言った。

「隆也」

あぁ、聞き返すんじゃなかった。

「ちょ、慎吾さ・・・」

不思議そうに、でも何処か策略的に笑う慎吾さんはもう一度口を開く、心臓が壊れてしまうと慌てて彼の口を塞いだ。
とりあえず冷静になろうと慎吾さんの口に手を当てたまま深呼吸をする。
彼は俺に口をふさがれた状態で俺の頭をなでた。

「なんでいきなり・・」

やっと落ち着いてきたところで恐る恐る手を放して聞いてみる。
首を捻り「なんでって・・?」と復唱する慎吾さんは格好良くて可愛いけれど、解っているくせに解っていない振りをする彼は質が悪い。

「もうそろそろ呼んでいいかなと思って。」

聞けばどうやら突発的なものだったようだ。

たしかにもう付き合って随分たつ、呼び方について疑問を持たなかったわけではないが名字から変わって名前を呼び始めたときも苦労した。名前を呼ぶのが容易くなっても慎吾「さん」という一枚の壁のような物を崩すのには、前例以上の勇気と其れに見合った心臓の強さが必要だ。

彼と付き合ってわかったが俺は結構心臓が弱い、彼一人に限ってな自覚はあるもののその一人が先ほどのような思いつきで酷く突発的なことをしてくるから困るのだ。

「嫌?」

ハッキリ言って嫌じゃない。寧ろ嬉しい、けれど呼ばれるたびに苦しくなるのは考え物だ。

「・・・い、や・・・じゃない、ですけど」
「けど?」
「・・・困ります。」

ぎゅうっと自分が思っていたよりも強い力で拳を握り締めて、じっと見てくる慎吾さんから目を逸らした。
前みたいに言ってる間に慣れるかもしれない、それでも其れまでが困る。

それにもし、慎吾さんが俺の事を名前で呼ぶとして、俺は?

俺に慎吾さんを呼び捨てに出来る自信は無い、ちょっと考えて心の中で言ってみようとしたけれど余りに恥ずかしくてそんなことも出来なかった。

本当に言ったわけでもないのに恥ずかしい、顔を上げられなくなった俺を慎吾さんは引っ張って、引かれた俺の体は彼の腕に収まる。
つよい力で抱きしめられて苦しかったので声を上げれば、慎吾さんはクスクスと笑った。
表情は見えないが楽しそうに笑っている事が雰囲気からも解って、なにがあったのか解らないまま慎吾さんを見る。

「・・・なん・・・」
「別に、」

理解ができないまま両手を慎吾さんの肩にかけて無理矢理抱きしめられていた体勢から向き合うといえるところまで体を起こす。
何なんだと聞き終わる前に顔を俯かせて笑っていた彼が顔を上げた。

「別に俺のこと呼ばなくていいからさ」

思っていたことを的確に当てられてドキッとした。
この人は本当に俺の心を見透かしたような事を偶に言う。

「お願い。」

そういわれてキスされた。長い其れに翻弄され、酸素を奪われて苦しくなる。
苦しさに慎吾さんの服を掴んで握り、引いても押しても放されない。

ついに苦しさに負けて、首を何度も振った。

放された唇、ぼぅっとする頭で半ば強引に俺から了承をとった慎吾さんを見ればニコリと笑ってもう一度触れるだけのキスをされる。

「好きだよ、隆也」
「・・・っ・・ずるいっ。」

半分無理やりに頷かされたところも、愛しそうに俺の事呼んでるその声も、好きだと模るその唇も全部ずるい。

もう知れているだろう顔の赤さを俺は俯いて隠す事しかできなくて、慎吾さんはそんな俺を何度も呼んだ。



貴方の顔がちゃんと見れないから止めてほしい


そう思うけど言えるわけがなくて、慎吾さんの胸に顔を埋めて少しでも彼の死角になるようにと擦り寄る。
はやく慣れてくれ、俺の体・・・と、半ば願うように言い聞かせた。

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