series SxA(first love)

□昼食ロマンス
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「隆也君って料理作れるの?」
「簡単なものなら・・・」
「じゃぁ今度作ってよ」
「はぁ・・・まぁ・・・」

機会があれば、なんて話したのが2週間前で事の発展は昨日の電話だ。
部活の休みの日と学校の休みの日を週単位のメールで連絡しあうようになってから毎日のように電話を掛けてくる島崎がその毎日の電話で言ったこと、

「明日学校休みだって言ってたよね?お弁当作ってきてよ」

そう言って電話の切り際に押し切られる形で言われた言葉に阿部は手料理を桐青まで持っていかなくてはならなくなった。


とりあえず唖然としながらあんなに嬉々とした島崎に断りの電話をかけなおすのも気が引けて、まぁいいかと自分の中で了承した後、
『恋人』の学校に『手作り弁当』を持っていくと頭で整理しなおし一人で顔を真っ赤にして恥ずかしさと嬉しさがぐるぐると回る。
恥ずかしさの波が過ぎても顔を染めたまま、何を作ろうかとベッドに横になりながら考えていた。

『・・・あの人、昼は結構食べるんだよな・・』

島崎の好みを考え、好きなモノを思い出しながら弁当の出来栄えを想像する。
どきどきと止まらない心臓に楽しいと思いつつも恨みがましく島崎を思い浮かべると、嫌いなモノを入れてやろうかと思った。
しかし、彼はなんでも綺麗に食べるし、モノを残しているところを見たことがないと気がつき、ささやかな復讐が出来ない事にも気づいて彼のことを想い、頬を緩ませる。
阿部はじぶんの乙女思考に気づくことなく、懲りすぎても恥ずかしいので卵焼きにウインナーというとりあえず定番のようなお弁当を考えると眠りについた。

いつものクセで朝早い時間に起きて、昨日を思い出しながら弁当を作り入りきらなかった分を弟に押し付けてやると弟が人参は嫌いだと言う静かな抗議の声がする。
其れをほぼ無視して(無視するような形になってしまったのだが)桐青まで結構長い距離だからと早めに出ることにし、弁当を入れた鞄と携帯を忘れてないか確認してから家を出た。

「いってきます」

阿部の両親は朝から出かけてしまい家に居なかったので弟にだけ向けてそう言い、鍵をしめた。
自転車の籠に鞄をいれて駅まで走り、到着した時には電車はすでに行ったところのようだったので仕方なくホームに座ってまつことにする。

時間は早く出てきたため余裕で、当然のように島崎のことを考えつつ待っていればすぐに次の電車が来て其れに乗る。
通勤からずれた時間のため人の姿はまばらで楽に座れたことに満足すると窓の外を見ながら早くつかないかなと、気持ちは初めて家族旅行に行ったときのようで、其れに気づいた阿部は周りからわからないように顔を伏せて笑った。

電車が目的の駅に着くと降りる。
時計を確認すればまだ昼には早すぎて時間をつぶそうか門のところで待っていようか悩んだ末に早く島崎に会いたくて、彼にすこしでも近い門で待つことにするとややゆっくりめに桐青高校に向かった。




「慎吾今日落ち着き無いな、なんかあるのか?」

4時間目は自習で、配られていた課題のプリントが終わったのか隣の席にいる河合がそう話しかけてくると、島崎はそこで初めて今日自分は落ち着きが無いことを知った。

「そうか?」

自覚が無かったため聞いてみると再度頷かれ、恥ずかしいと思ったが顔には出さないようにしてまるで何も無いみたいな口調で
「ちょっとな」とだけ答える。

普段あまり私生活で表情の変化を見せない島崎だが今日は気づくと仄かに笑っていて、しかも本人は気づいていないらしい、女子に人気の有る彼だからその表情に移動教室ですれ違う女子などが心奪われファンが増えていく瞬間を河合は間近で見ていた。

島崎はプリントをやる気が無いのか真っ白い用紙を気にしないで窓側の席を有効活用し外をじっと見ていたが、急にすばやく動いて何処からだしたのか、カタカタと細かく触れる携帯を開いた。
すると開いた途端驚いた素振りをしたが今まで学校では見たことが無いほど穏やかに微笑んで窓を開け門の方に視線を向ける。
当然いきなりの行動にクラスの大半がそれを見つめる中、椅子に座った状態で多少身を乗り出しながら窓の縁に腕を乗せて首を門の方向に向けたまま今度は携帯をいじり始めた。
何回かボタンを押した後携帯を耳に当てる動作に、電話かと理解するが自習といってもあくまで授業中だというのにと河合は自由奔放な彼に苦笑をした。

「もしもし?」

ワンコールのみででた阿部はすごく不思議そうな声を出して、それが電話越しで島崎に伝わる。

「あれ?授業中じゃないんですか?」
「自習、それより窓見て、3階。」

自習とはいえ授業中に電話を掛けるなんて困った人だなと思いながらも言われたとおりに3階の窓へ視線を上げれば一つだけ開いている窓から人が小さく手を振っているのがわかり、思わず「あ」と声を出した。
電話越しに聞こえたらしく笑い声がして阿部は恥ずかしくなりながら、照れ隠しに何やってるんですかとぶっきらぼうに言ったが、それを島崎が気にすることなく電話から伝わる彼の声は弾んでいる。


「ん。お出迎え」
「・・・。」
「本当に出迎えるのはあと20分くらいかかるけど」

苦笑交じりの声に頷いた。待っていると答えると嬉しそうな声が聞こえ、その声に阿部も嬉しくて笑みを漏らす。
それから上を向いて話していたからか、首が痛くなってしまったところで優しい声のあと電話が切られて、早く本物に会いたいと思いながら門に寄りかかって授業が終わるのを待った。
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