other

□起きてみる夢
1ページ/3ページ

コンコンとノックをする音が響く、まだ起きていないだろうと思いつつ予想通り出てくる気配のない兄に、慎吾は息をついて扉を開けた。



夏休みということで学校が長期閉鎖する一週間、その一種間は野球部も活動ができないということで母に促されるままに帰省した。
暑い中電車を乗り継ぎ帰ってきてみれば、母は兄にも同じことを言っていたらしく、家の敷地には格好つけたような赤いスポーツカーが駐まっていた。
免許取りたての頃父親から受け継いだお古の軽自動車だったが、最近バイトして貯めた金で買ったのだと言っていたのを思い出す。

維持費が大変だと母に諭されたようだった。
しかし元々車が好きだったのか、それとも反対されて火がついたかは知らないがなんだか満足そうだったと思い出す。

『ま、いいけどね』

見慣れている、少し懐かしみを感じる玄関のドアノブに手をかける寸前、ギィときしんだ音を立てて開く扉に半歩下がった。
父は仕事の時間のはずだ、とすれば母か兄かと考え、慎吾は目視しようと顔を傾ける。

「あ!お帰りなさいっ!」

ひょっこりと顔を現したのは母だった。
息子から見ても若干年相応より若く見える彼女は、驚いた表情を一瞬だけ見せると次の瞬間はうれしそうにニコニコと笑う。

小柄だ小柄だと思っていたがこんなにも小さかったかと目を疑いつつ、ここ数日で自分の背が伸びたことに着目してあぁなるほど、と一人で納得した。

「おかーさんはお夕飯の買い物行ってくるから、いい子にお留守番しててね」
「…え?あ、うん。わかった。」

のんびりと今からすることを説明した母に、慎吾はおとなしく頷く。
すると手を伸ばし、慎吾の頭をなでて相変わらずニコニコと笑った。

「あ!ただいまは?」
「ただいま」
「うんっ、よろしい!じゃぁいってきます。お兄ちゃんはお部屋で寝てるからね」
「ん、わかった。気をつけていってらっしゃい」

見送った後はさて、と息をつきやっと家の中へ入る。
慎吾は靴を脱ぎながら兄のことを思い浮かべ、帰って早々寝るというのが大変彼らしいと口元をにやけさせた。

とりあえず荷物を置くために優が居るだろう部屋へ向かう。

彼らの部屋は家の2階にあり、それなりに広いこの家の中で共同部屋だった。
というのは、慎吾もそうだが優も高校へ行く際一人暮らしをするということで家を出て行き、中学2年で既に図らずとも一人部屋のようなものだったからだ。
分ける必要がないという父の考えには大いに賛同できる為文句など更々ない。

ぽっかりと空いてしまう部屋が二つもあるほうがもったいないだろう。

これは予断だが、慎吾が兄と同じ高校に合格し出て行く時、母は不満そうに「うちの子は自立が早すぎる」と零していたのを思い出した。

『…とりあえずノックしとくか』

自分の部屋なのだから必要はないだろう、それでも兄がいる事実にしりごみしてしまってなんとなく拳をドアに向けた。

コンコンとノックをする音が響く、予想通り出てくる気配のない兄に慎吾は息をついて扉を開ける。

「兄貴…?」
「……。」

当然のように返事も返ってこない、これは予想通りだ。
しかし慎吾は不思議そうに彼の名を呼ぶ。
何故か、といえば予想と違う場所にいたからだ。

ベッドの上に寝ているだろうと思っていた。
それは正しく、彼は確かにベッドの上に寝転がっているが思い描いた場所が違う。
間違えたのか故意的なのか、優は慎吾のベッドへ横になりそれは気持ちよさそうな寝息を立てていた。

「…なんで俺のベッドで寝てんの?」

いくら久しぶりでも間違ったということはないだろう、
そう考えて優の方のベッドを見ると、たしかに持ち帰ってきたのだろう荷物やらが放置してある。
が、眠れないほどではないように思う。
そもそも床に落とせば済むことだというのに何故そうせず、ベッドを移動することで解決したのか。

『まぁ、床で寝てるよりいいけどさ』

慎吾は別に彼が嫌なわけでは断じてない。
彼はただ兄が自分のベッドで寝ているという事実を自分でもわからないうちに恥ずかしいと思っているのだろう。
ベッドの横に荷物を置き、まったく意味を成していないブランケットを手に取って優へそっとかける。

「ん……」

布の刷れる音と肌に触れる感触が気になったのか、優は小さく吐息を漏らし身じろぎをした。
寝返りを打つ彼の、長めの前髪がさらさらと額を滑って落ちる。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ