2万hit企画

□子に向ける一種異様な二種類の愛情
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「・・・・?・・・タカ?」

仕事がひと段落して背伸びをした時に、さっきまで隣でじっとパソコンを打つ手元を見ていた彼の気配が消えたことに気がついた。
名前を呼びながら振り向きざまに下ろした手、黒く柔らかな絨毯とは違う感触に触れて必然的に視線を下に向ける。

確認した其れは柔らかい絨毯の上に寝転がって眠る子供、先ほどまで隣に居て、探していた其の姿。
今まで開けていた瞳をゆるりと閉じて眠る姿を見るたびに「こんなにも幼い」と思うのはこの子供がやけに大人びていつも隣に居るからだろう。

それでもふとしたことで大きくなったね、なんて思うのは今までの成長を見守っていたからだと、なんだかしみじみ思ってしまって、「年かな」と眉をひそめる。

「・・・寝ちゃったか」

絨毯の上、触れたのは子供らしい柔らかな指、子供らしいすべらかな肌に心地よくなって、更に、と頬に触れた。
柔らかい頬からゆっくりと洗いたてで乾いたばかりの髪の毛にサラリと指を通す。

不意に隆也が身動ぎをして、慎吾の手の温もりに擦り寄る仕草を見せた。
可愛いと親ばからしく思うがまだタオルケットだけでは肌寒いこの季節に、コンナ場所で寝かせるわけにはいかないと思う。

「こんなところで寝ると風邪ひくよ?」

そう彼が聞いているという反応もないのに言い、サラリと頭を撫でる逆の手で、ガラステーブルの上にひそやかなモーター音を響かせながら開いていたノートパソコンをパタリと閉めた。
一端隆也から手を離して自分の腰を持ち上げる慎吾はもう一度立った状態で手を天井の方へ伸ばし、ぐっと背伸びをする。

体の力を抜き一息ついた後に、足元でうつ伏せになって寝ている其の姿へ目を向けた。
立ち上げた体を屈ませ、眠る小さな体を無理の無いように抱き寄せる。
両手で背と足をしっかり支えると「よっ」と小さく一声で軽々持ち上げた。

ゆらり、そう力なく慎吾の体から離れていってしまいそうな体を引き寄せ、自分の体に密着させるようにしてしっかりと抱え込む。

「・・ん・・・」

抱えなおされカクンと首が揺れた事に、閉じられていた隆也の其の目が薄っすらと開いて今自分の居る場所を確認するかのようにさ迷った後、ぼんやりとした様子で慎吾を見つめる。
そんな彼が現状を理解しているとは言いがたい。
ただ、唯一確認できる範囲で慎吾に手を伸ばし、まだ幼い其の手で彼を弱々しく掴む。

「し、ん・・・?」

隆也は慎吾を「父」という名称で呼ばない、それは当たり前のことのように慎吾は受け入れて、優しく微笑むのは何時もと同じ光景。
まるで恋人のような甘い雰囲気をこの親子は自然と持っていて、彼らもまたソレを・・・否、それが良しとしている。

「ベッドまで運んであげるから、寝てていいよ。」
「うん・・・。」

隆也の瞳が眠たげに閉じて慎吾は其の瞼の上に一つ、キスを落とした。


彼は自分の行動から、不意に昔から親しい友人が「慎吾は父親の顔になった」と言っていたのを思い出す。
それと同時に「どの彼女よりも愛おし気に見つめている」といわれて、今まさにそんな目を向けているのだろうかと、鏡の無い今の状態で確かめる事もできず思う。

しかし、そう言われても慎吾は「父親でも有り恋人でもありたい」とする自分の気持ちをわかっていたので不思議とも思わなかった。
寧ろ当然だ、と憮然とした態度で返してみせ、其れを聞いた友人はお前らしいといえばお前らしい、そう言って笑い程々にしろよと冗談のように返す。

少しは理解されているのか、まるで理解できないか、どちらにせよ諌められている。
色々考えて慎吾はとりあえず「あぁ」と曖昧に答え、その時横に座っていた隆也の頭を撫でた。



隆也は唇の感触に眠気を含んだ瞳を向けて、慎吾の向ける目に緩やかな表情で笑い返す。
擦り寄る胸元に光る十字のネックレス、それに手を伸ばして指を絡ませ、まるで離れないでとでも言うような仕草で子供らしく無垢に微笑んだ。

「・・・ね、る?」
「ん?俺?」
「ん。」

寝起きの少しかすれた声で聞く。
単発な言葉の裏を読み取って、真意を探る慎吾は気が付くとにこりと笑って先ほどと同じように今度は額に口付けた。

「一緒に寝ようか?」
「・・・・うん。」

素直に頷く隆也はあまりに子供で、あぁ愛おしいと強く優しく抱きしめる。
隆也は安心した表情のまま、慎吾の胸に頭を預けて微弱だった力すらだらりと抜き、スゥッと眠りに落ちた。

「・・・・おやすみ」

聞こえていないだろうその声、だがゆるりと隆也の体は反応して指が微動する。
其の姿にこみ上げる笑いを抑えずに口元で笑み、寝室へ起こさないように注意しながらユックリと歩き始めた。
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