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□二人だけにわかるアレコレ
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「慎吾?慎吾さん・・・?・・寝てる?」

ソファの上にグテンと体を横たえ、力が抜け切ったようにだらしなく放り出された指先に気が付いて阿部が島崎へ声を掛ける。
相当眠かったんだろうか、珍しくソファなどで眠りに付いた島崎に、阿部は思わず笑いが零れてしまった。

運ぶ事は無理なのでせめて風邪を引かないようにという配慮で隣の部屋のベッドから引っ張ってきたフワフワの毛布を島崎にかけて、その余った端っこに自分も包まり、ソファのあいている部分に頭を預けて島崎の観察を始める。

『ま、寒いし・・・』

ぎゅっと毛布をずれ落ちないように彼の体に絡ませ、なるべく近くに寄りながらお互いが寒くないように配慮して毛布を分け合う、今この異様に近い二人の距離について誰に言うわけでも無いが言い訳を考えた。

ぼんやりとしているとどうしても眠気が襲うようで、それでも眠るのは忍びなく、どうにかして起きていようと昔の事を思い出す。

昔と言ってもそう遠い昔というわけではない、ただ此処で一人暮らしをする島崎の部屋へ自分が転がり込んだ時の話だ。

高校生だったころ、1年生の時甲子園で出会い、それから数ヵ月後に正式に付き合い始めた二人は一緒になってもう4年目になる。
付き合い始め半年に島崎が東京の大学で一人暮らしをするから、そういって2年、少しでも近くにいる事を望んで何もかもを投げ出す気持ちで追いかけ、彼と同じ大学を目指した。
阿部自身、自分らしくないと笑った事もあった程それは無謀のような事だったが、周りは其処に行きたい本当の理由を知らないから特段攻められたりはせず、自分の感じる違和感とは逆にあっさりと入ることが出来たのだ。

性格は似つかないような二人だが、根本的なところの、好きなものとか好きなこととかは一緒であったために阿部はその勢いだけで目指した大学に途中で本格的に魅力を感じ、今本当に楽しい学生生活だと満足している。

今の心境を考えると彼には感謝しなくてはならないな、と密かに笑んだ。
彼が居なければめんどうくさがりの自分がわざわざこんなところまで来て学校に通ったりはしない。

受かったという通知の後、まれに連絡を取り合っていた島崎にいえば驚いた声が返ってきて。

『言ってなかったからすごく驚いてたんだよな・・・』

滅多に驚いたりしない冷静な彼だからこそ、其の時の声色は今でも鮮明に覚えている。

受かってから一度彼の家へ行き、そのまま泊まって久しぶりに触れられる距離で話をした。

そのときに少し実家とは遠いので住む場所を如何しようと相談して、ならば一緒に住むといいと誘ったのは彼だった。
2年前から既に引っ越していて、もう生憎住み慣れているから物は揃っているし暮らし始めるのは楽だと進めてくれた事を思い出して、あの時は嬉しかったと振り返る。

今住み慣れた、リズムの出来上がった彼自身の生活に招き入れてくれるのだと思うと、なんだか許され、受け入れられた気がしてただ嬉しかった。
彼に言えばきっと「何を今更」と笑う事を知っているので、阿部は何度思っても其れを口にした事はない。
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