2万hit企画

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西浦は本日、1年に1度の大イベントとされる文化祭で賑わっている。
クラスが盛り上がる中一人、盛り上がる様子も無ければ罵倒するわけでもなくただ床をじっと見てぼぅ

っとしている人物が一人いた。
ソレが阿部隆也だ。

「阿部〜、もっと盛り上がろうよぅ」

水谷が阿部の腕を掴んでぐぃぐぃと引っ張るのを心底ウザそうに払いのけている彼は、それでも何時も

浮かべる眉間の皺を見せずに目的も無く一点を見つめている。

異変に気がついた花井が、どうした?と心配して声を掛けるが、間延びした声を漏らすのみで顔を上げ

る様子すらない。
水谷も不安気に声を掛けてみて、やはり同じ反応が返ってくることに首をかしげた。

文化祭なんて面倒くさい、やる気でない。と常々言っていた阿部だったが学校行事となればちゃんと働

いて準備もしていたし、昨日までは今見たいな様子は見せていなかったはずだ。

「うーん・・・」

水谷が困ったように花井に目を向けてくるが、花井とて何故阿部がこうなっているのか知らないのでた

だ首を振る。

「おい、お前ら。さっさと準備しないと遅れるぞ」
「うぃー。」

通りがかりにクラスを覗き込んだ泉が眉を寄せて三人を指差しながら言い、返事をする水谷に一つ頷く

と忙しそうに何処かへ行ってしまう。

「あ、もう9時半だ!ほら、阿部っいかないとっ!花井もっ」
「あぁ、だな。」
「ん・・。」

やはり何処か覇気の無い阿部に二人はもう一度不安げに顔を見合わせながら、如何にか阿部を引っ張っ

て目的地である部室へ向かった。



「なんか阿部、元気ないね」
「だよねぇ〜、どうしたんだろ。」

コソコソと話す栄口と水谷が阿部のほうをチラリと見て首を傾げる。
結局解らないまま時間は10時を回り、開催と同時に阿部が重いため息をついた。

「どうしたんだよ」
「ん・・・わりぃ、俺今日迷惑かけるかもしんねぇ。」

本当にどうしたんだ、何か悩みがあるなら言えと花井が話しかけるが阿部がただ遠くを見ているのみ、

しかし、次の瞬間無表情同然だった顔がピクリと強張った。

「・・・来た・・・。」

阿部の顰め面は珍しい事ではないが、ここまであからさまに嫌だと主張するものは珍しい。
其の視線の先には?と興味を示した面々が瞬きを数度繰り返して目を見開き、「あ」と口走る。田島は

といえば目を煌かせ大声で手を振り名前を呼んだ。

「りーーーおーーー!!!」
「・・・あれって桐青の?」
「え・・・まじで?」

田島の後ろでコソコソと話す栄口と巣山がチラチラと笑顔を向けてテタテタと走ってくる金髪の男を見

た。
其の後ろにはあの試合で見覚えの有る人たち、軽く混乱しながらも阿部に目を向ける。

「・・・だから、悪いって。」

眉間に皺を寄せる彼は、どうやら中心人物となってしまうことをわかっているらしく、迷惑そうな視線

を桐青の人達に向けて冷たく見つめた。

見た目もオーラも何処か輝いていて目を引く彼等のうち、島崎慎吾という茶髪の終始ニヤニヤとした笑

みを浮かべる彼が阿部と恋人同士だというのは西浦の野球部なら全員知っている。
寄ってきては馴れ馴れしく阿部を抱きしめる島崎を見て動揺しながらも仕方ないと割り切れるのは彼等

が少し覚悟していたからだろうか。

ただ、桐青の彼等はそれほど達観していないらしく、島崎が阿部に絡みつかせた腕を投手である高瀬が

掴んで離したり、捕手の河合がやんわりと制したり、その他もろもろ色々な事をして引き離そうとして

いる。

この中から阿部が島崎を選んだとして、どうやら納得できていないようで敵対心はむき出しと言っても

過言ではない。

「・・・っ文化祭・・・なんですけどっ・・・」

ついに立腹した阿部が睨みを聞かせてそういえば、大人しく彼等は手を離して阿部を開放した。
阿部は照れ隠しか鬱陶しさからか主将である花井の後ろに逃げ息をつく。

彼等の視線に花井が青くなりつつ、阿部は素知らぬふりを決め込み後はよろしくと言わんばかりに花井

の背を叩いて外へと逃げ出した。
阿部から文化祭の内容を聞いていた島崎は阻むことなく逃げていく阿部の後姿を見つめている。

「・・・?文化祭の出し物って何?」

利央が逃げる阿部を横目で追って田島に問うのを、田島はニコニコと笑ってただ完結に「おにごっこ」

といったのだった。
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