2万hit企画
□「夢の中すら離れないで、
1ページ/4ページ
最近は受験だなんだと忙しくて、やっと其れが終わった春手前。
終わるまではとお互い自粛していたがこの日やっと会えることに決まり島崎は阿部を家に呼んだ。
直ぐにでも会いたい、と真夜中の電話で言えば明日は部活なので、と彼らしいクールさで一掃する。
「明日、部活の後すぐ行きます」
電話越しの声は何処か嬉しそうに跳ねて、島崎は其の声に「じゃぁあと一日だけ我慢しようかな」と笑った。
強い風の中髪の毛を乱しながら玄関から入ってきた阿部の息は切れていた。
約束通りとはいえ、其れは彼とて早く会いたかったのだという事を表しているようで、島崎は嬉しさで早々に抱きしめてしまいそうになる。
しかし、此処は玄関先だと自重し、久しぶりに見たニコリとした顔で笑いながら「お邪魔します」と言う彼の手を、島崎は急き過ぎないようにゆるりと掴んで部屋に招きいれた。
久しぶりだからだろうか、少しでも触れていたい。
堪らなく恥ずかしくて口には出さないそんな気持ちが島崎の胸にはっきりと浮かんでいた。
「今日泊まれるの?」
居間へ続く廊下、穏やかに繰り出したその言葉を受け取る阿部は目をキョロキョロと左右に動かして戸惑って見せる。
繋いだ手が少しだけ強く握られ、唇を一度キュッと結んだ後に頬を仄かに赤く染め小さな声で恥ずかしそうに呟いた。
「・・・・・泊まれって言うなら。」
余りに小さな声で顔を伏せながら、更に顔を見られないように島崎より少し前を歩いているが、手はしっかりと握られている事に、島崎は思わず笑ってしまう。
しかし、阿部が何時ものようにそれを睨みつける様子はなく、それどころか振り向かない彼に、これでは話も出来ない、と島崎は逆に歩を緩め、其の腕で繋ぎとめる事で同時に先を行く阿部の歩みをも緩めた。
「じゃ、泊まって?」
お願い。
と何処となく妖艶さを含んだ雰囲気で、阿部を体ごと引き寄せ耳元でボソリと呟く。
彼は顔を真っ赤にして慌てて手を離し、そそくさと居間へ入っていってしまった。
『あ、ちょっとやりすぎ?』
速度を速めず追いかけてソファ、ではなく、その下で小さくなっている阿部を見つけ、島崎は後から近づきその頭を少し反省しながら撫でる。
腕に顔を埋め隠す其の体勢からソロリと顔を上げて控えめに島崎を見上げた。
その唇は何かを言おうとしているのか、小さく開閉を繰り返す。
其の言葉を待つ為に黙って彼をなで続ければ、やっと先ほどのような小さな声だったが口にした。
「・・・久しぶりなんで・・・、あんまり、」
「うん?」
「こういうの、恥ずかしい・・・。」
『久しぶりじゃなくても恥ずかしいくせに。』
膝を抱える其の腕がきゅっと力を込めたのが見て解る。
こっちを向いた顔がまた隠れてしまって残念だと、しかし其の顔は嬉しげに阿部を見つめていた。
島崎は彼を振り向かせる術は知っているから無理にそうしたりしない、撫で続ける手を止めず、近づかない彼の代わりに、と其の耳に自分で顔を寄せた。
「やめてほしい?」
冷静を装っている割には煩い心臓の音は軽く無視をして、其の、もう一度ゆっくりと向けられる視線を見返す。
阿部の恨みがましく見つめるその目に、ゾクリとするがまた其れが心地良いと自覚して、なにかおかしな趣味があるのでは、と自分の事なのに疑ってしまう。
「いじわる・・・。」
「なんとでも?」
彼が家に来てから10分経たず、彼の瞼に久しぶりの口付けをした。