2万hit企画

□泣く君へ、彼らは想う
1ページ/7ページ

いたい、ヒリヒリする、瞼が重い。
でも練習には出ないと、行きたくないなんて思わないけれどこの顔は余り見られたくない。
というか、泣きはらした顔を見せたいと思う奴はいないだろう。

昨日部活帰りにちょっと、本当にちょっとだけ慎吾さんに会いたくなって会いに行っ・・・・・・

ボロリ。

もう、どんだけ泣けば気が済むんだろう、この目は。
涙って枯れないものだなぁ、なんてどっかの歌詞に出てきそうな言葉を思い浮かべながら、そういえば朝起きてすぐ は喉がカラカラだったことを思い出した。

そう思うと枯れるといわれれば枯れるのかも知れない気がする。
でもきっとその時は死ぬ時とかで、何死って言うんだろう、なんてどうでもいい事を考えて気を紛らわす。

家族に見られないように朝早く、珍しく朝飯も食わないで来てしまって、でも全然腹は減ってない。
それどころじゃないって事なんだろうな、妙に納得した。

また思い出しそうでじわりと浮かんだ涙と、つんとした鼻奥にイラッとする。
シャツの袖をグッと引っ張って目を擦った。


当然のように一番初めについた部室、日だってまだ昇りきっていなくて薄暗い、電車が動き出すくらいの時間だろう。

人に見られたくなくて早く来たけど結局は部員や学校の生徒に見られるわけだ、そんでからかわれたりとかして、そんで・・・。

『今日休めばよかったかも・・・』

でも休んでも(何をしてても)彼のことは忘れられないんだし、何より母親に言い訳が出来ない。
一人暮らしのあの人が羨ましい、とか

『・・・また思い出してるし。』

野球してる時くらい忘れられるかと、淡い期待にかけてみたけど実際彼と俺は野球で繋がったところがあるから絶対忘れられないんだろうな、と思う。
頭が上手く働かない、空回ってるというのはこういうことなのだろうか、自分の及ばなさに胸がモヤモヤとする。

『・・・』

朝早く来た奴は、まず部室の鍵を取りに行かなければならないのに、何だか其処から動く気がなくなって、ドア横の壁を背もたれにずるずると座り込む。
服が汚れても気にしない、だって今日の授業はあのいくらでも休めるほぼ無人保健室で一日を過ごすと決めているから。

『・・・屋上でサボるのもいいな』

其の方が人の目に触れないかもしれない、どちらにせよ授業に出るつもりは少しも無かった。

「あれ?阿部?阿部だ!」

大きな声がして其方を向く、自分の名前がやけにハッキリと聞こえてもう誰か来たのだろうか、と辺りを見回したけ ど誰も居ない。

「・・・?」
「こっち!こっちー!」

そこでグラウンドの向こう側、フェンスに登って大きく手を振る田島を見つけた。
其処は彼の自宅、確か彼の祖父が持つ畑があった事を思い出して、田島はきっと何度もあの近道を利用してるんだろうなと考えをめぐらせる。

『どうせ普通に来ても徒歩1分のくせに。』
「こっちー!あーべー!」

とりあえずわかった事を知らせる為に手を振った。
それから田島は騒ぐのをピタリと止めて、フェンスの向こう側へ姿を消す。

何故あそこから人が発見できて俺だとわかるのかとかは、なんか田島の場合どうでもよくて、大体部員の中では暗黙の了解とされているから、そうそう滅多な事では触れない。

「いってきまーす!!」

良く聞こえる大きな声が、はっきりと聞こえることに「こんな早くからじゃ近所も迷惑だろうな」と思うと一緒にあそこで飼っている鶏のことを思い出して、別に変わらないかと思い直した。

またさっきと同じような位置に立った田島が、そのままフェンス越しに鞄を放つ、登るんだな、と思うころには既にフェンスを跨いでいた。

よじ登る田島に、危ないから寄せという気力は今の俺には無いから、小走りに近寄ってくる彼をじっと見る。
この泣き腫らした目は、どうせ隠してもばれてしまうんだろう、隠してバレるならば普通にしていたらばれないかもしれない、と自分でも意味の解らない事を思う。

タッタと軽快な足音をさせていた田島の足が途中で一瞬止まる仕草を見せる。
そのあと、彼は似合わないハッとした顔をしていっそう早く走ってコチラへやってきた。

「アベ!なんで泣いてんの!?」

やっぱり、バレるだろうなと、開口一番に矛先が突き刺さる。
声に出して「泣いてる」といわれたからか、そこで改めて自分が昨日今日と泣いた事を自覚した。
そしてそれが中々恥ずかしい

「(今は)泣いてない」

心の中で付け足した一言に嘘は言って無いと言い訳をしても、それで田島が納得するわけが無くて、なんだかムッとした田島に両手で肩をつかまれる。
ほっておいてくれるとは思ってなかったけど、こんな怒ったような、不機嫌な顔を、まさか田島にされるとは思ってなかったから正直ちょっと驚いた。

「・・・何?」

掴まれた肩をそのままに、田島の顔色を伺うようにして聞く、彼はムッとした表情を崩さないまま「ちょっとまってろ」と、ただそれだけ言い残して俺の肩から手を離しダッシュで校舎に向かって行ってしまい、ただ俺は其れを見えなくなるまでぼんやりと見ていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ