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□彼らの祝日と独裁者達の襲来
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合格おめでとうございます。
そう言って自分の事のように嬉しそうに笑い、拍手をする阿部に慎吾は照れたように「ありがとう」と返した。

「あの時みたいに喜んでよ」
「あの時…?」

阿部の頭を優しく撫でながらやらしく微笑み、あの時と口にする言葉に彼は一瞬きょとんとして頭の中を探る。
なにかしただろうか、と、首を傾げて眉を寄せる彼を慎吾は微笑みながら見守っていた。

「……あ!」

しばらくの間の後思い出したのか阿部が声を上げ、慎吾をばっちりと見つめて顔を赤く染めた。

「え、や、嫌ですよっ」

首を振って拒否する彼に慎吾は残念だと変わらぬ笑顔で呟く。

二人の言うあの時とは合格発表の日を指していた。


「おめでとうございますっ!」

そう言って自分が受けたわけではないのにまるで自分の事のように喜ぶ、そんな彼が今だけではなくあの時にも存在した。
歓喜のあまりか、飛び跳ねて強く抱きつく阿部を、慎吾が驚きながら嬉しそうに抱きとめる。

「ありがとう」と礼の言葉を阿部の耳元で口にすると強く腰を抱いた。
それで我に返ったのか、彼は顔を朱に染めると慌てた様子で肩を押して離れようとするので、慎吾は押さえ込むようにして両腕でさらに強く抱きしめる。

脱出不可能だと阿部が諦めるまでそう時間はかかず、その腕の中に大人しく納まった。

「ねぇ、今週末家にきてよ」
「…え?」
「お祝い、頂戴」

阿部は一瞬慌てた様子を見せたが、目を泳がせつつも小さく頷き、思ってもいないというのに「変わりに離せ」と照れ隠しに発言する。
残念そうに離れる慎吾の腕を残念そうな面持ちで見つめる彼に、慎吾は苦笑を漏らした。

腕を絡ませてきたのも、離せといったのも彼だったのに、と、口では言わないがそんな事を思っていた。

その日は何かと慎吾のほうが忙しく、本当にそれだけ伝え慌しくも帰路につく。
彼は、次会う時はめいっぱい抱きしめてやろうかと考えながら迎えた『今週末』というのが今日だった。
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