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□その人は恋しく愛しい人
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伸ばされた手はいとも簡単に俺を閉じ込めて

対格差からスポリと収まってしまった体と触れた背中から伝わる体温が恥ずかしくて

「離れろ」と、冷たい言葉をかけてしまった。





「えぇぇ、なんでぇ〜?」

半泣きで訴える仲沢は腕を絡め離さないまま、それどころか阿部を強く抱きしめる。
恥ずかしいからとは言えずに彼は、ただ鬱陶しいからとだけ言い睨みつけて離れろともう一度言った。

「・・・うー・・・」

納得できない、そんな唸り声だが本当に嫌なのか嫌じゃないかは彼には判断できずに大人しく腕が離れる。
自分で言っておきながら少々残念に思ってしまう心情を隠しつつ、ばつの悪そうな表情が見えないよう顔を逸らした。

「ねーねー、たかやー」
「・・・なに?」

離れた指がそろりと背後から近づいて阿部の手を爪先でカリと引掻く。
意図がわからなくて首を傾げる言葉で言えといわんばかりに視線を仲沢に向ければ、彼はふわりと笑った。

「こっち向いた。」
「・・・っ」

其の顔が余りに嬉しそうなのでぐっと言葉に詰る。

顔を見て話すくらいでこんなに幸せそうに笑う、それが性格上できない阿部には酷く羨ましくもあったし、恥ずかしいと思うところでもあった。
ばつの悪そうな表情を見せる阿部が、向けていた視線をソロソロと明後日の方向へ向けて、あっちに行ったりこっちに行ったり、あぁ忙しいと自分でも思ってしまう。

「・・・それだけ・・・?」

向いて欲しいためだけにカリカリと手を引掻いたのだろうか、それならそれで良いのだが他に意味は無いのかと詮索してしまう癖が出る。
大抵こうすると仲沢は他の意図が無く、困ったような焦ったような動きと表情、声で一生懸命他の理由を探すのだ。

今回も案の定そうだったのか視線をあたりに撒き散らし、「あー」とか「うー」とか唸りつつ首を傾げて申し訳無さそうに阿部のほうをチラリと見て視線を外す。

「・・・だって、構ってほしいんだもん」

そんな子供みたいな。

子供みたいな意思表明に子供のような仕草を見せて一般の大人より大きな彼が身を縮める。
思わず目を細めてしまう阿部が、ふわりとした自分の表情に気がついて恥ずかしさにキッと顔を引き締めた。

「ね?ね??だから、ちょっとでいいからさ。」

普段からタイミングの悪い彼は生憎阿部の表情を見ていなかったらしく、換わらない接し方にほっとしつつ。
ソレと同時に「ちょっとでいい」と何かを求める彼は、手を伸ばして阿部の手を取り彼の頬を染めさせる。

「なにっ・・・」

ぎゅっと握られた手の平は温かいがそれと同じくらいに阿部の顔も熱を帯びていくのが傍目で見てわかるほどだ。
それほど彼は、この手を繋ぐという好意に動揺と羞恥を見せた。

「ちょっと!ちょっとでいいから!!」

お願いと懸命に話しかける其の表情は捨てられた犬のような表情で訴える。
正直、阿部はこの表情が苦手、というよりも彼の必死の訴えに弱い節があり、困ったと判る表情で握られている手を見つめた。
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