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□彼の戯言と真実
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思わず耳を塞ぎたくなるような甘い言葉に頬が赤く染まる。
何が楽しいのかニヤニヤと笑う彼は、手を伸ばして頬に触れて赤いと笑って言った。



日がゆっくりと沈み朱色が辺りを覆う。
島崎のマンションからよく見える、辺りの民家を飲み込んでいくその光に今日始めて気づいて阿部は目を奪われた。

「すごい・・」

綺麗と口に出すのは思っていても中々恥ずかしくて勇気がいる。
なのであえて阿部はすごいと口にして手のひらをガラス窓につけ外を見た。
まさに夕暮れ、コレから夜になるとは到底思えないような明るさで、それでも反対の窓から外を見れば確実に夜は広がっている。

ベランダに出て身を乗り出せば見えるかもしれない夜の面影を、しかし、阿部は見ることはせずにぼんやりと日のオレンジだけを見ていた。

「綺麗?」
「・・・はい。」

口ごもって考えた末に逃げた阿部のわかりにくく崩された言葉をいとも簡単に理解して、しかもそれを安易に行ってみせる島崎に阿部は素直にうなずき、そして少しだけ羨んだ。

こういう言葉を彼は恥ずかしげもなく言ってしまう。
自分には出来ないことに純粋にすごいと思い尊敬もした。

「隆也のほうが綺麗」

しかし、こうはなりたくない。

思ってしまうのは島崎が余計に何か言うからで、
一言多いというのはこういう事を言うのだろうと阿部は察してふぅと呆れ半分の息をつく。

平常心と何度も心の中で唱え、距離の近さにドギマギする心臓を落ち着かせる。
余り近すぎるのは良くないと数歩摺り足で彼と距離をとって視線を窓の外に一生懸命向けた。

「可愛い、綺麗、食べちゃいたい。」

島崎は少しだけ開いた距離より大きく近づいて窓に追い込むよう腕と体で囲い込む。

遠ざかる阿部を島崎は許そうとはしない、逃がさないと言っているようなそんな行為に今出来る阿部の唯一の抵抗といえば視線のソレのみ。

「・・・こっちむいてよ。隆也。」

どうやら彼はその視線がお気に召さなかったらしい、少々すね気味とも取れる声色で頭を首筋に押し付ける。

「ちょ、やめっ・・・」

首筋に当たる唇の感触と息の熱さ、阿部はフルリと身を震わせて逃げるため島崎のほうを勢い良く振り向いた。

先程まで顔の横同士だったのだから近いのは必然だ、しかし阿部には予期せぬ事態だったらしく鼻先が、ソレよりも唇が触れるほどの距離に驚いて目を見開く。
島崎も行き成り振り返るのは予想外だったようだが、彼が振り向いた事でして大まか満足し、してやったりの笑顔を向けた。

「・・・っ」

間近に見た島崎の笑顔に阿部の心は正直に音を立て、頬は高揚する。
そんな阿部に島崎も確かに心臓を高鳴らせ、窓にあった手の平を阿部の頬へ滑らせて優しく触れた。

「キスしていい?」
「・・・なっ!?」

阿部自身そうなってもおかしくないと思っていたものの、島崎の発言に動揺を隠せず肩を揺らす。

文句でも言いたげな視線だが言葉は詰まるばかりで一向に否定的な返そうとはしないので、阿部の気持ちを感じつつ島崎は笑いを押し殺し真剣な表情を見せ、顔を傾けて唇に数ミリ近づく。

ぎゅっと阿部の瞼が閉じられ掌を強く握り締めるのが島崎の目に映って顔をほころばせた。
それと同時に息を吸い込み、ふっと強めに唇へ息を吹きかける。
ビクリと阿部の体が揺れた。

「嘘だよ。」
「・・・え?」

結局触れることは無く島崎が遠ざかるのを阿部は瞬きをしながら目で追う、阿部の唇から唖然としたような声が漏れて、島崎は頬に触れていた手の親指の腹で優しく唇を撫ぜる。

「残念そうな顔。」
「そ、んなこと・・・ないです。」
「・・・」

ムッとした顔をした阿部が少し涙目だったことに虐めすぎたかと反省して阿部の腰を引き抱き寄せる。苦笑し、冗談だと宥めながら優しく唇を押し当てた。
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