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□Not dreadful
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薄暗い中其処だけぼんやりと光る緑にボケた明かり。
曇って映らないほどぼやけた鏡に辛うじて彼ら二人の姿が映る。
明らかに何かありそうな雰囲気に阿部は歯を食い縛って其の鏡をにらみつけた。
彼は幽霊やそういった類のものが苦手である。
何故苦手なのかといわれてもわからないが実際に存在しないナニカが居るかもしれないという恐怖は耐え難い。
「うわっ」
ぎゅうっと抱きつく阿部に島崎がクスリと笑うのが聞こえる。
恥ずかしくて体を離し、でも袖から手は離れなかった。
其処に又彼の感じている恐怖が伺えて可愛いなと島崎は笑う。
辺りを見回しながらビクビクとしつつ縋るように袖を持つ手、ここに入る前の阿部はこんなものなんでもないといった風に意地になって島崎よりも先に入っていったものだが、今ではすっかりこの調子だ。
阿部は呆れられていないかと冷静に戻るたびに不安になるが、島崎にそんな様子は無く、寧ろそんな彼が可愛くて仕方が無いと弧を描いてしまいそうな唇を無理矢理押し留める。
「っ・・・!!」
ガタンッと大きな音に体を揺らす阿部が今度は衝動で抱きついてしまわないように気をつけつつ島崎に近づいてその背に縋りついた。
「ねぇ、隆也。」
「え?・・・あ、はい?」
こんなところに入ってしまった事を後悔一杯に受け止めているのが判る表情。
確かに色々なところに張り巡らされる仕掛けなどビックリさせられるものが多いが、こんなに怖がるのは珍しいのではないだろうか。
それは島崎があまりこういうものに恐怖心を感じないからこそそう思うのかもしれない。
そういう島崎の心臓はまた別のことで大きく音を立てて動いている。
暗闇と恐怖に縋る恋人、普段日常では無い異常なまでの彼から与えられる近さ。
阿部が恐怖に息を呑むたびどきりとした。
「・・・キス、していい?」
意味の解らないと、恐怖に脅えた表情で弱々しく「はぁ?」と聞く姿が島崎の背をゾクリとさせる。
返事も聞かないうちに縋る手を優しく取って握りこみ、引き寄せて肩を受け止めた。
「だっ・・・!」
唇を掠める寸でのところで阿部の手が島崎の唇を押さえつける。
制止がかかり眉を寄せる島崎がその数センチという距離のまま酷く不満げに首を傾げた。
島崎の吐く息を手の平に感じ阿部の体がピクリと揺れる。
「ここじゃ、やだ。」
「・・・」
島崎は何も言わないがその視線を上げて周りの様子を改めて確認する。
薄暗いその回路、古ぼけた壁と茂った偽者か本物かわからない草、確かに何時誰が見ていても可笑しくないようなこの状況、改めてみればムードもないだろうか。
「ん、わかった。じゃぁ・・外でたらいい?」
「っ・・だめ」
今度は傍目にもわかるほどムッとしながら阿部の手を唇から離して、もう一度今度は声に出し「なんで?」と聞く。
そんな島崎に、阿部は怖いのも忘れて真っ赤に染めた顔で必死に頭をフルフルと振った。
「だ、・・・そ、外じゃないですかっ」
「・・・、わかった。」
心底残念そうに項垂れる島崎に少々罪悪感を覚えつつ、肩から離れていく彼の手を名残惜しそうに見つめる。
が、途端、ガサガサと行き成りの物音に驚いた阿部は思い切り離れたばかりの島崎の腕に絡みついた。
「わぁっ!!」
「お」
阿部は心底ビックリして物音のした方から目を離さないが、島崎は怖がる様子は無く、ペットリとくっついた状態の腕に絡まる彼の腕を見て仄かに顔を染める。
「ビックリ・・した。」
しばらくただ見つめていた阿部だったが、何も無いことが解ると絡まる腕はそのままにほっと息をついた。
「うん、びっくりした。」
同意しつつ視線は腕に、彼等の会話は繋がっているように見えて実は全くと言っていいほど繋がっていないようだ。