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□空の色なんて関係ない
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何処でも良いから一緒に出かけよう、と島崎が言い出したのは熱くも無く寒くも無い曇りの日だった。
天気の良いとは言いがたい今日だが、それでも春を含んだ強めの風は気持ちよくて阿部は悩むことなく二つ返事で返す。
部屋着で居た島崎がじゃぁ着替えるからと言って立ち上がり、彼の服が有る寝室のクローゼットへ向かう。

別に隠す必要もないと部屋に向かいながら、その移動途中で薄い上着を脱ぐ島崎が「何処行こうか。」と後に居る阿部を振り返らず聞いた。
阿部は其の背中に目をやって座っていた絨毯にコロリと横になり、さも考えている風に唸り声を上げたが、目はただ島崎の着替える様をじっと見つめて仄かに頬を染める。

「・・・隆也?」

視線に気づいた島崎が振り向いて、一瞬バチリと目が合い逸らす。
ただ只管向けられていた視線は無意識だったのか意識的だったのか、どちらにせよその可愛さに島崎はこっそりと目を細めて笑い、着替えを続行した。

「何見てたの?」

アレ以降視線が島崎に向くことは無く、着替えの終わった彼が阿部に近づき横になったままでいる彼の頭をワシワシと撫でる。
その間文句を言おうが気にする事無く撫で続ければ、起き上がって少しムッとした表情を島崎に向けた。

照れ隠しだと判っている為、其の表情すら愛しくて引き寄せて抱きしめるが、折角着替えたけれど外に行きたくなくなってしまうなとぼんやり思う。
誘っておいてソレは少し自分勝手だと抱きしめた阿部の肩を掴んで離す代わり、名残惜しさを紛らわせる為に頬に一つ口付けを落とした。

「っ・・・」
「どっか行きたいとこ、ある?」
「・・・誘ったの、慎吾さんじゃぁないですか・・・。」
「うん、でも隆也の行きたい場所に行きたい。どこでもいいよ?」

赤く染まって頬を押さえる阿部の反論は、饒舌な島崎に対して意味をなさない。
彼は何処でも良い、は向けられた人にとって困る発言だという事を知っていて、それでもどこでもいいと言う。

阿部は色々な積み重ねではぁと緩いため息を漏らした。


うーん、と先ほどのように唸りながら考える阿部が島崎に困った視線を向けて、「何か言ってくれないと困る」と訴える表情をする。

『あ、可愛い』

訴えなど気にした様子も無くただ其の様子ですら嬉しそうに見つめる島崎に、阿部は眉を寄せて視線から逃れるように顔を逸らした。
何か言わなければずっとこうなのだろうか、其処まで考えて困った末にやっと口を開く。

「じゃ、ぁ・・・。」
「ん?」
「散歩でも・・・?」

人の多いところにあえて行こうとは思わない、そんな彼らしい答えだった。




こんな昼だというのに暗い、雨の振りそうな日に外で散歩というのも変だと思いだしたのは島崎のマンションから出て来て気持ちの良い風に空を見上げた時。

「台風の前日みたいですね。」
「あぁ・・、」

そう言われてみれば、と黒い雲と強く吹く風を思い出す。

「そこの公園でも行く?」

それでもさらさら帰る気はないという島崎が阿部に横目を向けて場所を聞いてみる。

「・・・もうちょっと遠く行きませんか?」
「うん、了解。」

こういう日には気持ちが高まるものだ、阿部は楽しそうに笑って島崎の薬指に自らの手を引っ掛けるように絡めて握る。
あまり見ない彼の積極的な態度に少しだけ驚きながら、島崎はそれを隠して握り返した。

こんな日に外に出てくる人なんてたかが知れているだろう、現に目の前の道に人の気配は無い。

「折角だから遠くまで」

あてはないまま「遠くまで」とだけ決めて、手はそのままに歩き出す。

行き成り風が背中へと強く吹いて、そのあまりの強さに阿部は振り向き後ろへ目を向ける。
島崎は握った手を強く引いて自分の隣へ阿部を招いた。
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