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□二人の温度
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阿部が来ているときに島崎は勉強している事が多い、彼はあくまで受験生なのだからそれは仕方がないことで、阿部もわかっているので何も言わない。
最初の頃は阿部も、もう少し来るのを控えた方がいいのではと思い島崎に聞いてみたが、きっぱりと言われた答えはNOだった。
しかもものすごい速さで「絶対ダメ」と、絶対と念を押されての事に阿部は大人しくハイと頷くだけだ。

それからも会える日は毎回、毎日でも島崎の家に呼ばれるなり来るなりしている。
いいのだろうかと、最初不安げだった阿部も時間がたつにつれて、自分が大人しくしていればいいのだという結論に達し問題視しなくなった。
だから島崎が受験勉強中は阿部もその近くで学校の教科書や問題集を開いて時には出された課題や予習などをしている事が定着づいてそれが当たり前の空間となっていった。

その当たり前の空間でいつもと違う事が起こる。
普段は集中力が切れるまで終始無言といった空間が広がる室内だが、今日の島崎は最初からなんとなく落ち着かない様子で阿部のほうをチラチラと見ていた。

「隆也君」

そう放たれる柔らかい物腰の声に一人何時もの様に過ごしていた阿部はそちらを向いて声の主を確認した。
彼は机の上に頬杖を付いてなんとなく不安げな、心配と言うのだろうか、そんな目を阿部に向けている。
島崎の普段ない視線に阿部はどうしたのかと首を傾けた。

「どうしました?」
「そこ、痛くない?」

其処、とは阿部の座っている場所だ、フローリングの床はいつも絨毯をひいてあるが昨日島崎がコーヒーを盛大に零して何時もはあるはずの其れは取り払われていた。
座布団と言うものが無いらしいこの家で阿部は床に直で座っていて冷たいうえに硬そうだと、そんな、他人ならばどうでもいい事でも阿部が絡む事で島崎の中では重大性が大幅に増し、其れをふと見た島崎は気になって勉強どころではなくなってしまったようだ。

「大丈夫ですよ。」

阿部の部屋はフローリングだし、なにもひかずに作業をするなど珍しい事でもないので平気だが、阿部がそれを主張しても島崎は納得いかないようで、うーんと頬杖をついた体制で唸った。

『はやく勉強し終えてかまってほしい』

これは阿部の意見だが、「かまって」等口が裂けてもいえない彼は心の中で思うのみだ、一度島崎から目を逸らして俯き気味にそう考えると自分の言葉がやけに恥ずかしくて、振り払う為に勢い良く頭を上げる。
目が合ったのは島崎が彼をじっと見ていたからだ、仄かに赤く染まった顔の阿部に島崎は微笑むと席を立った。

何事かと立ち上がる島崎を阿部は目で追うが近づいてくる島崎に目だけでは追いきれなくなり上を向いた。
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