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□林檎の発情期
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「ハイ、りんご剥けたよ」
「あ、ありがとうございます」



部屋に、雨が窓を叩きつける音が響く。ローテーブルの上、透明な器の中で林檎たちが熟れている。
そして俺はどういうわけか、愛しい彼を前にして完全に暇を持て余している。
今日は埼玉全域に大雨洪水警報が発令された為に、午前で授業が終わった。当然のことながら俺は部活がなくなり、また慎吾さんは予備校を休むに至ったので、こうして慎吾さんの家に招かれている。が、しかし。
(いつもはやだって言っても触ってくる癖に)
今日に限って入試の過去問に夢中なのである。まあ、受験生としてあるべき姿ではある。
(でもここまで放っとかれるとなー)
俺は慎吾さんの様子を伺った。さっきから俺の視線には全く気付かない。無機質な蛍光灯の光が彼の顔に影を創っている。
(あ、睫毛なげー)
照らしだされた頬は、それこそ彼が剥いた林檎のようで。
(なんか美味そう…)

「ちょっ!?た、たかや!??!」
「…へ?」
顔をあげると真っ赤に頬を染めた慎吾さんがいた。
「なに、急に、どうしたの?」
珍しく動揺しているらしい。その様子が可笑しくて俺は思わず吹き出してしまった。
「ちょっ笑い事じゃねんだよ??」
益々慌てた風な慎吾さんに、俺はとうとう声を上げて笑いだしてしまった。
「ったくもーなんなんだよー急にキスとかってお前笑いすぎ!!!」
慎吾さんは盛大に俺を叩いた。

「で、なんだったの?」
漸く笑いが治まった俺に慎吾さんは聞いた。まだちょっと拗ねている。
「はー笑ったー…や、なんか、構ってもらえなくて、慎吾さん見てたら美味そうだなーって」
「でキスしたのかよ」
慎吾さんがあからさまにため息をつく。
(あ、やだったかな…)
「あ、ごめ…「あのねえ!」俺の言葉は慎吾さんの左肩に遮られた。驚いて慎吾さんを見ようとするが抱き締める力が強すぎて、身動きが取れない。というか、苦しい。
「あのね、そーゆーのやっていいのは俺だけなの!」
「なっ…」
「せっかく人が我慢してたのに!即行押し倒したくなっちゃうでしょ!!」
そう言って、慎吾さんは少し力を緩めた。
「がまん、してたんすか」
慎吾さんを見上げて言う。それには答えずに、ちょっと困ったように笑う。体の奥がぐっと熱くなるのを感じた。慎吾さんのこういう表情が、俺はすごく好きだ。
じゃあ、と言って首に腕を回す。
「早く食べちゃってよ」
慎吾さんの目が少し見開かれる。
その反応が嬉しくて俺は調子に乗って耳元に囁く。

じゃないと熟れすぎちゃうよ。

一瞬の間に俺は慎吾さんに組み敷かれた。
「やだって言ってもやめないからね、今日は」
慎吾さんの声が降ってくる。
望むところ、とキスで答えてやった。
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