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□それはだめ
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午後七時。
ついこの間までは、まだ空は明るかった筈なのに、今はもう、六時過ぎには日が落ちて、空が真っ暗になってしまう。
昼が長い方が、俺は好きなのに。
明るい方が、隆也の顔を長い間見ていられるから得した気分になる。でもまだ、夏の延長線にいるからか、日が暮れても暑いのは変わらない。


「隆也、コンビニでアイス買わね?」

「あー、俺も食いたいかも」

「おー、じゃあちょっと、寄ろうぜ?」


日が落ちてもまだ昼間の余韻を残すこの生温い温度に、喉が何か冷たいものを欲している。
コンビニに入ると、汗をかいていた肌が一気に冷やされて行くのを感じた。
様々な種類のアイスクリームが並ぶ様を眺めていると、隣からすっと伸びて来た手が俺の目の前にあったソフトクリームを掴んだ。


「え、お前そんなん食うの?」

「‥悪いっすか?」

「暑いのにクリーム系って、冷たくても暑苦しい気しない?」

「そんな事無いですよ。人の食おうとしてるモンにけちつけるの止めて下さい。準太さん、何食うの?」

早く決めろと言わんばかりに隆也が俺をジロリと睨んだ。自分からアイスを食おうと誘ったのに、俺はまだ決め兼ねている。
だって、並び過ぎだ。
散々迷った揚句、苺練乳味の氷系のアイスバーを食べる事にした。

レジに並ぶと隆也が俺のまで払おうとするから、腕を引っ張り制止させた。


「イイ。俺出す」

「マジすか?ごっそさんです!」


少し嬉しそうな顔で隆也が言うのを見ると、やっぱ可愛いな、なんて思ってしまう。
隆也の感情表現は今だによく把握出来ない部分が多い。

怒ってる時はまあ、何となくわかるけど、それでもちょっと淋しげな顔をする時もあるし、俺もそこで突っ込めばいいのに、隆也には何故かそうさせない雰囲気がある。
素直に言わない隆也もそれはそれで可愛いから良いんだけど、もう少し、一緒に過ごせる時間というものが欲しい。
何せ、知らない事が多すぎる。

開く自動ドアの向こう側は、やはり、さっきと変わらない蒸し暑さをもって出迎えてくれた。
コンビニの袋からアイスクリームを取り出し、グルグル巻かれた白い方を隆也に渡す。
パコっという乾いた音で、ソフトクリームの蓋が外れる感じを思いつつ、俺は自分のアイスのパッケージを開けた。
横目に隆也を見ると、大口を開けてソフトクリームに食らいついている。実に男らしいというか‥まあ実際男なんだけど、こうして見ていると可愛いらしさのカケラも無い。
しゃくり、とアイスが俺の口の中で溶けていく。苺練乳味は正解だった。


 

しばらく隆也を見ていたら、俺の視線にに気づいた隆也が顔をこちらに向けて口を開いた。


「‥そんなジロジロ見てたって、けちつけた奴にはあげませんからね。」

「いらねーし。多分、こっちのがウマイ」

「あっ‥溶けんのはえーな。つーか甘っ」


白いクリームが隆也の指先に向かって垂れて行く様が、どうしても卑猥なものにしか見えない。年中盛ってて仕方ない年頃だけど、俺の頭ん中は一体どうなっているんだろうか。
気付けば隆也の口元ばかりを目で追っている。

(ああ、食べたいな‥)

なんて、ぼんやり考えていたら、隆也の黒い制服には何箇所か、白い斑点が出来ていた。口元は子供かと突っ込みたくなるくらい、溶け出したクリームにまみれている。
どんだけ大口で食ってんだコイツ。もうやめろよ。俺今エロいシーンしか頭に出て来ないってのに。

(‥食べたいんだけど?)

頭の中で思った筈が口に出ていたようで、「しょうがないですね」なんて、隆也が言いながら溶けかかったソフトクリームを俺に差し出した。
俺はというと、口の周りに付いているクリームを隆也の赤い舌先がちらちら掬い取って行くのが気になって、そればっかり気になって、それどころじゃない。


「‥食べないの、準太さん?」


食べればいいのに、と言うような顔をして、一度俺に差し出したソフトクリームをまた、隆也が大口でかぶりついた。その口の端から、収まり切らなかったクリームが白い軌跡を作った。
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