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□ゆめのあしあと
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彼と付き合い始めて、もうすぐ4ヶ月が経とうとしている。
初めはひどく戸惑ったけれど、今はもう慣れた。
それは悪い意味ではない。
むしろ、彼に出会えたことを感謝したいくらいだ。
彼のおかげで、色々と新しい自分を発見できたし、人を愛することがこんなにも素晴らしいことだって、わかった。

今、自分はとても幸せだと思う。

だから、彼を失うなんて、夢の中だけで十分だ。



ベッド脇に置いてある、目覚まし時計の音で目が覚めた。
6時30分。外はまだ薄暗い。
冬で、日の出が遅い上に、曇っているからだ。
晴れていれば、この気持もどうにかなっただろうに。
俺の部屋は物が少ない所為もあって、ひどく静かで寒々しい。
それにも関わらず、着ていたジャージが気持悪い程、湿っている。
あんな夢を見た所為だ。
と言っても、朧にしか覚えていないが、隆也がいなくなってしまう夢だった。
いつもと変わりない生活の中で、隆也の存在だけが消えていった。
静かに、でも確実に。
それが、俺は、ひどく怖かった。

「・・・・・・はぁ・・・」
「よぉ、慎吾・・・・・って、おまっ、顔青いぞ!?どうした!?」
「・・・・和己?」
「なんで疑問系?」
俺の目の前で、和己が苦笑いしている。
「っていうか、俺いつの間に学校に?」
「はあ!?もう昼だぞ!?大丈夫か、お前、本当に具合が悪いんじゃ・・・」
確かに、目の前の和己は弁当箱を持っている。
(っていうか、すごいな俺。無意識のうちに学校まで来たのか。)
習慣て怖えぇ、と俺が関心していると、隣で盛大なため息が聞こえた。
「慎吾、お前、そんなんで隆也に会えんの?今日約束してんだろ?」
『隆也』という単語に心臓が、ぐっと詰まる。
それが顔に出ていたのか、和己が心配そうに言った。
「やっぱお前今日おかしい」
「・・・さすがキャプテン、よく見てるねぇ」
えへっと笑ったら、殴られた。

この時期、3年生の授業は少なく、昼休み後のHRで今日は解散だった。
俺はまだ隆也との待ち合わせには時間があったし、和己も進路が決まっていて暇らしいので、俺の話を聞いてもらうことにした。
窓からは、今にも降り出しそうな黒雲と、グラウンドでサッカーをしている(おそらく体育の授業だ)生徒が見える。
「・・・で、それが理由?」
和己は相変わらず苦い顔をしている。
そういえば、今日は和己の笑窪をほとんど見ていないな、と頭の隅で思う。
「まあね・・・」
ほとんど上の空で答える。
「なんか、慎吾が夢でへこむとか・・・珍しいもの見ちゃったな俺。つーか、そんなに大切だったんだ」
「和己お前、それ俺に失礼」
横目で睨むと、和己は、あははと笑った。
「いや、いい傾向だと思って」
「何が」
「だってお前、なんかふらふらしてるからさ、隆也のことも、なんていうか・・・半分遊んでるんだと思ってた。ってか、今までの付き合い方が、そんな感じだったから」
一瞬、俺と和己の間が静かになった。
(和己にはそう見えたのか)
確かに、今までは結構遊んできたと思う。
ただそれは、野球を真剣にやっていたから、そこまで恋愛に集中しなかったし、俺自身が本気で誰かを好きになったりしなかったからだ。
「俺、隆也のことは」
「うん、わかってるよ。お前が本気なのは。そういう大事なことは早く本人に言ってやれよ。この天気じゃ、部活も早くあがるだろうし、約束の時間よか早く会えるだろ」
そう言って和己は、にっと笑った。
外はいつしか雨が降り出していた。
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