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□君の温度
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走る、走る。


こんなに必死になって走ったのは、きっと野球部のとき以来だと思う。
そして、これほど自分の家に早く帰りたいと思ったことは、多分無い。



アイツに会ってから、なんかおかしいと和己とか、山ちゃんとかに言われたけど、自分でもそう思うから否定出来ない。
ずっと、アイツのことばかり思ってて。…今だって…。

普通合格発表の結果なんて、親だとか友達だとかに真っ先に報告するはず、なのに。俺の携帯は、アイツの番号をうつし出していて。

…アイツ、結果聞いたとき、自分のことみたいに喜んでくれたな。
あのホッとした声が、柔らかく微笑んでいる顔を連想させて。

ヤバイ。考えれば考えるほど、更に会いたくなる。


あと、数メートル。住んでいるマンションはもう既に見えている。


玄関のセキュリティを解除して、エレベーターのボタンを押して、乗り込む。少し待って、自分の部屋のある階に着く。さっき取り出した鍵をさして、開けて。

いつもは静かに開ける扉も、勢いよく開けてしまう。

早く会いたい、その衝動に駆られてしまって。


「ただいまっ…」

「あっ!おかえり、なさい…!」

扉を開けて、帰宅時のお決まりの挨拶をして。

すると、返事が返ってきた。そこまではいいのだが、問題は、その声の発された場所。


「隆也!?玄関で待ってたのか?」

「…ごめんなさい。一秒でも早く、会いたくて…


…合格、おめでとうございます」


隆也は、玄関で待っていたらしい。床から立ち上がり、俺にだけ見せてくれる、あの柔らかい笑みで迎えてくれた。そして、俺が靴を脱ぐと、ぎゅっと抱きしめてくれた。

俺も、隆也を抱きしめ返す。可愛い顔して、可愛いこと言ってくれちゃっている恋人を目の前にして、我慢できるヤツなんて…無理だろ。少なくとも、俺は絶対無理だ。止めるつもりもないが。


「ありがと、隆也」


久々の、隆也のあたたかさ。
俺の受験のせいで、なかなか会えなかった。何だかんだ言って、1ヶ月近くは軽く会っていなかったのだ。

出会って、付き合い出して、そんなに月日は経っていないというのに、俺はこんなにも隆也に依存していた。
メールは毎日していたし、電話もまあ頻繁に。週に一回は必ず会っていた。


でも、俺が推薦で大学受験をすると知って、隆也は連絡を抑えると言ってきた。
俺が良いと言っても、隆也はダメと言って。

「大切なことなんですから、今は受験に集中して下さい…」

隆也も辛かったのだろう、悲しげな声でそう言われた。そう言われてしまえば、俺は受験に集中するしかない。でないと、彼の決心を踏みにじってしまうことになってしまうから。

それからは大変だった。

俺が受験を考えていたのは、志望校であって、自分の偏差値とさほど変わらないもののレベルが高い大学と、滑り止めの大学。やっぱり志望校に行きたいし、隆也にあんな顔させたからには受からないといけないと力が入った。

勉強時間も増やしたし、推薦受けるからそのための面接試験の勉強、練習。隆也とは週一程度に電話するだけだった。それでも、やっぱりその電話は糧になったが。

そして、今日の合格発表。
結果から言うと、合格。
自分の番号を確認すると、俺の手は自然と隆也の携帯へと電話をかけていた。


―っ、はいっ

―隆也?俺、だけど。

―…はい。あの…

―合格、してたよ。番号あった。

―!お、おめでとうございます!

―うん、ありがと。

―あ、あの…

―?

―慎吾さんの、家で…待ってます。だから…

―分かった。すぐに行くから。

―はいっ!待ってますね。

―うん。じゃあ、後で。

電話を切って、電車に乗って、降りて、走って。

今、こうして隆也と一緒にいて。

久々に、隆也のあたたかさを感じている。
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