short

□tickle!
2ページ/2ページ




ところで、だ。


傍から見ればあまりにイチャイチャという単語が当てはまるこの二人のやり取りをただ飽き飽きといった様子で見つめる人物が現在進行形で一人いる。

「お前ら、俺がいること忘れてんだろ」

そうソファに腰掛けただ呆れた様子で彼らを見つめる彼、呂佳は彼らの明らかな存在を忘却する態度に一言、自分の存在を思い出させるため言葉を挟んだ。

案の定目の前の彼らは目を丸くして驚きついでに「そういえば」と思い出す。
その態度にわざとらしく息を吐き、目の前で静かに座って激闘している二人に近づいた。

「え、な。」
「ほれ」
「ろ、ろ、呂佳さ…!?」

まるで子供にするように後ろから抱え込み腕を持ち上げる。
肘を手の平で持たれて力技で下ろせないようにさせると、彼は慌てて呂佳の名を呼んで暴れだした。

「おま…、全力で暴れんな」

阿部の時は其の力をほぼ出していなかったくせにと睨み付け、意地でも離してやるものかと其の闘志に火をつける。
それで逆にしまったと思うのは島崎からしてみれば当たり前のことで、どうすればいいものかと考えた。

目の前では阿部が半ばきょとんとして其の現状を見つめ、困惑しているようにも見える。
しかし呂佳はソレを気にせず、「今だ、ヤレ」と何故かあまりに簡潔な命令した。

「ま、まって、ちょっと!マジっ…」

青ざめる彼の体は足で雁字搦めにされ、身動き一つ出来ない状態を作られる。
阿部は先程の表情から一変し、それは楽しそうに島崎の脇腹に手を伸ばす。

其の姿は可愛らしいが、余りにも小悪魔的だ。
あのなんともいえない感覚と息も吸わせないような疲労感が今から襲うのか、そう思って身構える。
身構えたところでそうたいして変わらないのだが。

「…っ」

スルスルと指の先でなでる阿部の動き、島崎は声を仄かに震わせたがこれくらいならまだ耐えられるだろうと歯を食いしばる。

「こういうのはもっと一気にやんだよ、ガッと」

するとまた頭上から呂佳の声が落ちてきて、余計なことをと思いつつ島崎の目は恐怖を含ませ阿部を見る。
とはいっても逃げる術など持たない彼は、やはり同じように衝撃に耐えるしかなく歯を食いしばった。

「んっぐ…っ」
「…」
「うぁっ、…っ!」

耐え切れず体を逃げようとひねり、努力する。
それでも呂佳の拘束はとかれることなく、それよりも彼がいることで逃げ道が塞がれ結局阿部が満足するまでその拷問は続けられた。
息を荒くして顔を真っ赤にしながら呂佳にもたれ掛かる島崎を、そうした張本人である阿部も頬を染めてぼんやりと見つめる。

「なんかエロイですね…」
「まぁ、慎吾だからな」

なにその納得の仕方、とは声に出せず。
代わりにゼハゼハと疲労しきったとされる息を吐く

「……う…、うぁん!?」
「お、まだ元気じゃねぇか」
「あっ、ちょ、やめっ…んっ…!ヘンタイいぃっ!!」

思い切り手の平でガッシリとつかまれた脇腹に、体が仰け反り反射的に其処から逃げようとした。
しかし呂佳はソレを許さず、ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべて思いのまま彼を擽り続ける。

「うー!うー…っ!!」

前言を撤回しよう、やはり心の準備は大切なようだ。
不意打ちはひどすぎると途切れ途切れに考えつつ島崎は目に涙を浮かべながらも無我夢中で反撃しようと肘を振り下げる。

「んっ…っ……、っく」

いとも簡単に避けられ、それ以上力が出ずに反撃する機会も失った。
こらえる為に腹筋に力を入れすぎたか、痛みを訴えるのがまた苦しくて仕方がない。
薄い酸素でぼんやりする頭の端、考えも無いまま脇腹に添えられた呂佳の手を掴んで弱々しく何とかとめようとする。

「おらおら、全然力はいってねーぞ?」
「うっ、うるっ、さいっ、…ん!やめ…っ」

じんわりと涙が浮かんでしまう自分の醜態を、目の前でおどろいた顔をしている阿部に見られたくないと言う気持ちがあり、意思だけは必死に止めさせようと抗議を繰り返した。

呂佳にしてみればそれは彼の島崎に対する加虐心を煽るのみで、抵抗と言うよりは挑発に近いだろう。
ただ其の行動はすぐに邪魔が入り続けることが出来なくなった。

島崎の前にいた阿部が彼を引き寄せ、また呂佳を遠ざけるために押したからだ。

片手一本で押されたからといって反応を見せる呂佳では無かったが、島崎の方は簡単に引き寄せられて二人は結局離れることとなる。
意地らしくもその呂佳にしてみれば細身、さらに小さな体で島崎を守ろうと必死なのか、阿部は強気な目で呂佳を睨み付けた。

「隆也…」

其の行為には島崎も驚いたのだろう、きょとんとした声をだす。
疲れきっているようにも聞こえるが、そのどちらもだろう。

「なんだよ、お前だってやってたじゃねーか」
「お、俺はいいんです!!」
「……あー」

強気な阿部の態度に、何か気が付いたのか呂佳は意地悪くニヤニヤと笑った。
目を細め、島崎を指差しながらわざとらしくからかう様に発言をする。

「あれか。こいつはお前のだとかいう」
「っ…」

意図する言葉の意味をズバリつかれ、阿部の顔は真っ赤に染まったが相変わらず呂佳をにらみつけ続けた。
島崎は疲労した体を引きずり、とりあえずこの険悪なムードに焦りつつも何とかしようと阿部の服の裾を掴んだ。

こっちを向いてくれという合図に阿部が困ったような、はたまた怒ったような、対応し切れていない複雑な表情で振り向き島崎を覗き込む。
島崎はそれにクスリと音を立てて笑った。

「ん、俺は隆也のなんだね」

ふんわりと笑む島崎に言葉の意味をゆっくりと理解した阿部の顔が更に真っ赤に染まる。
それが可愛らしく手を伸ばして阿部の頭を優しくなでた。

「あ、っていうかそれがいいな。」

にっこりと笑った島崎にぼんやりと見惚れ、阿部は真っ赤になった顔を隠すように彼の死角へ隠れる。
自分ひとりが翻弄されているようで悔しいのか少し眉を寄せる阿部が、苦し紛れにぐっと島崎の脇腹を押すとまた不意打ちに一声上げるのを、してやったりと笑った。


そしてまた、二人の世界を作り出し振り出しに戻った雰囲気に呂佳は眉を寄せ、嫌そうに見る。

「…だから、俺がいること忘れんなって。」

半ば諦め半分に息を吐き、そうつぶやいた言葉に二人は気づくことは無かった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ