series ToseixA(Dear)

□無理矢理サイクル
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―その後―



「なんでいきなりあんな事になったんですか…?」

阿部にとっていきなりでも、彼らにとっては一切いきなりでないことももちろん有る。
用意された制服、カメラ、どれをとってもいきなりと言うものではないはずだ、河合は苦笑して阿部の疑問をただ聞いていた。

こういうのを応えるのは自分の役割ではないし、この企画を思いついたのも自分ではない。
教室の中で聞かされたこの提案に、何故と思ったのは河合の方だった。

ただし、そうなる予兆だけは彼のせいでたしかにあったのだけど。


数日前の雨の日、体育館も使えずあまりに暇だと高瀬と利央が河合のところへやってきた。
其処には山ノ井と島崎もいて3人で何とはなしにトランプをやっていたのだ。
意外とのめり込むとして大富豪をやっていたのもの、3人じゃイマイチ盛り上がらないと思っていたところの2人の登場だった。
5人でトランプを分け、決まったルールの下大富豪から大貧民まで決め、繰り返し。
負けず嫌いの面々はそこそこに熱くなったが、
ソレも数度続けば飽きるもので、日も落ちている時間だしと最後の一回に乗り切った。

罰ゲームと称して大富豪は大貧民に命令できる。
そんなお決まりのルール変更がされ、今までとなんら変わりなく始まった。


結果から言うと負けたのは島崎であり、勝ったのは河合である。

この結果は意外だと言う中沢に頷く高瀬は、罰ゲームに期待してか河合を見つめる。
こういう時、とんでもないことをサラッと言ってしまうのが河合なのだ。
いわゆる天然である彼の言葉に一部は期待をもち、一人は恐怖していた。

「軽いの頼む」
「んー…、あ、じゃぁ女装でもするか?」
「……え?」

ポカンと口をあけて河合を見る島崎はもういちど言ってほしいと言うように耳を河合に傾ける。

「だから、女装でもするかっていったんだ」

聞き間違いじゃないこと、そして冗談ではないことを確認すると島崎は嫌そうに顔をゆがめて「どうしてそうなったんだ」と聞いた。

聞いてみればそう難しいことではない。
少し前にあった体育祭で高瀬がクラスの代表として何故か制服を着せられていたからソレを思い出しただけだった。

高瀬にとってもいわゆる黒歴史であまり思い出してほしくないものだが、自分がするのと他人がするのでは全然違う。
自分がしたとき大笑いをした島崎に一矢報いるチャンスが出来たと高瀬は喜んだのだから。

「準太の着てた制服あるの?」
「記念にってもらったんで、家にありますよ。」

本当は破り捨ててやろうかとも思ったが、そんな事をしている自分を想像すると変態くさく、ゴミに出すにも人の目に触れてほしく無くて結局クローゼットの奥の奥へしまいこんだ。
彼は寮暮らしなのでもってこようと思えばすぐに持ってこられるというと、山ノ井が面白そうにじゃぁ持ってきてと頼む。

「え、マジでやんの…?」
「あたりまえじゃん。あ、購買でカメラって売ってたっけ」
「ありますよ、前買いに行ったときありましたから」

山ノ井の疑問に仲沢が答え、何故そんなものを買いにいったんだと少しそちらに疑問が向いた。

「なんか一人転校するとかで記念に何かってなったんで」
「なるほど」

転校生にカメラで撮って渡したと言うわけだ。
それは有る意味それほど仲良くない人にとって面倒でなくていいかもしれないと思う。

「じゃぁ利央勝ってきて」
「え、今からですか…」
「準太も取りに行ったし、いいじゃんか。それに利央貧民だし」
「…カメラは割り勘ですからね。」

ハイハイと軽く返される生返事を疑いながら、利央はそろそろ閉店していてもおかしくない購買まで走っていった。

「ちょっと急すぎねぇ…?」
「膳は急げだな」

ケロリといった河合を島崎がにらみつける。
河合は気にした風も無く、負けたお前が悪いと笑った。




おそらく、このことが発端になっているのだろう。
自分の一言で随分飛躍した考えまでたどり着いたものだと思う。

阿部の女装が見たいな等と誰が最初に言ったかはわからないが、河合はソレを聞きながら見てみたいのも事実だったわけで、特に返事を渋るわけでもなく話に乗った。

「よし、じゃぁ俺が理由を見せてやろうか」

そういうのは山ノ井だ。
彼はニヤニヤと今まで出一番悪そうな笑みを浮かべて阿部に近づいた。

理由、と聞かされて首をかしげる。
見せるという表現もさらに疑問だったが、島崎だけがハッと何かに気づいたようで慌てて待ったをかけた。

「…ヤマちゃん、まさか」
「そのまさか」

親指を立ててすがすがしいほどきっぱりと言った言葉とほぼ同時、ぶんどられる前にと急いで渡した2枚の紙切れ。
ソレを見てあぁなるほどと河合は至って冷静に思った。
恐らく仲沢も似たようなものだろう、なんせ今の状態は傍観者でしかないのだから。

高瀬も気づいたのか、島崎と二人で慌てて阿部に弁解していた。
そんなに言い訳を言わなくてもやられた本人が一番気持ちを理解しているだろうに、
しかし困るだけだろうと思った阿部は、河合の予想と反してその紙切れとその当事者を見比べ、ぶはっと噴出すほどに笑って見せる。

渡されたのは恐らく、女装した二人の写真だろう。
意外と似合っていたと思うのだけど、という感想は河合の心の奥にしまいこまれたのだった。
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