series ToseixA(Dear)

□無理矢理サイクル
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彼の反応は山ノ井に言えと言われたときの自分の反応と似ていたがどこか違うような気もした。

それにしてもこういう普段言いなれていない卑猥な連想をするような言葉は本当に恥ずかしいもので、どんどん体温が上昇していくのがわかる。
目の前の高瀬も先程よりもどんどん真っ赤に顔全体を染め、二人してオロオロとしてしまう。

「…い、言えって言われたんですよ?」
「う、うん」

耐え切れず種明かしをすると、曖昧に頷く声が返ってきて本当だと念を押す。
すると何度も頷いて大丈夫だと教えてくれた。
うん、彼はいい人だ、と再確認する。

「…着替えていいですか…?」

それに比べてこの人は碌な事しないな、などと思いながらチラリと振り返って阿部は山ノ井を見た。
其の視線に気づき、ニコリと笑った後に周りを見渡す仕草を見せたのは、恐らく周りにも許可を取ろうという気持ちの表れだろう。

幸い誰も首を横に振るものは居なかった。
ならばよかったと一息つく、首を振ろうものならとび蹴りしてやるつもりでいたのだから。

「じゃ、最後に写真撮ったらいいよ」

あぁ、そういえばそんな約束だったか。
こうなればもうやけで、早く終わらせることに意識を向かせる。
結局抵抗しても着替える時間が延びるだけということは、嫌でもわかってしまったのだ。

「でも、1枚だけですからね」

そういう約束だったはず、言ってやると山ノ井は笑顔で頷いた。
撮るのは河合のようで、明らかに用意してあった良い物そうなカメラを手に取っている。
たしかにこの中だと一番写真を撮るのが上手そうだ、と阿部は思う。

どうせなら仲沢あたりに撮らせてピンボケで終わってしまえばいいのにとも思った。



「じゃぁ着替えてきますから」

パシャリとフラッシュを撒きながら撮られた写真に溜息を漏らし、島崎が端に追いやった服を手に取り、抱えて隣の部屋へ移動する。

「あ」

ドアを開けて向こう側に行こうとするとき、不意に仲沢から何かに気づいたような声がして振りかえった。
彼はこちらに向けて小走りに近づき、後ろと小さく指を指す。

いったい背中に何があるのか、あいにく振り返ったが何も見えず、首をかしげて彼を見た。
彼は何故か頬を赤く染めつつ、回ってと肩を掴んで軽く誘導する。

「なんだよ」
「さっき服取った時かな、ゴミ付いたみたい」

背中の丁度真ん中だろうか、シャツの上に指の感覚が落ちて首をひねれば、彼は行動の意味を教えた。
指先に掴んだ糸くずにずっと付いていたのだろうかと思うと少し気恥ずかしい。

「あー…さんきゅ」

そもそも着なくても良い女性物の服についていた糸くず、礼を言うのが少々理不尽な気もしたが、とってもらえたことには変わりない。
何より彼はあまりこの話題とかかわっていないような気がしてならなかったので素直に礼を言った。

「うん!」

ニコニコと嬉しそうに笑うでかい犬を背に部屋にはいっていく、
そもそも何故こんな格好をさせられたのか、何度も思ったが結局ソレは聞けずじまいだ。

女性物の服からやっと開放される事にほっと息をついた途端、そんなことが気になった。
部屋を出たら何が何でも聞いてやろう、
溜息を吐きつつ阿部は最初に着ていた服に着替え、いつもどおりの姿で彼らの前に立ったのだった。
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