series ToseixA(Dear)

□無理矢理サイクル
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こんな格好をしている時点で既に生き恥は晒しているのだが、刑は軽い方が良い。
刑も何も、悪いことはしていないのだけれど

『とりあえず、準太さんには悪い…けど』

有る意味、彼を売るような行為だと思う。
ただ、先ほどから一言もしゃべらず此方を見ている彼が、本当にどこかおかしいではと思っていたし不安だったし心配だった。
山ノ井が提案したこの言葉は、刺激を与えるのには打ってつけだと阿部は思う。

悪い意味で、だが。

「吐いても知りませんから」
「大丈夫、失神はするかもだけど。」
「…何いったんだ?」
「ひ・み・つ〜」

山ノ井が親指を立て、もっと自分に自信をもてとまるで元気付けるかのように言うが、阿部は一向に下がり調子であり、一向に元気が出る予感はしなかった。
失神などさせてしまったらある意味ショックだなぁと高瀬の前まで歩いていく。
と、彼は身を見るからに硬くさせて見たことも無いほどとてもいい姿勢で起立している。

端から見る分には少し面白い。

「準太さん?」
「…ぅっ…」

『うって…』

そんなに嫌なのか、いままでこちらを見ていたくせに近づいた途端わかりやすすぎるほどそっぽを向いた。
たしかに痛々しい格好だがそんなあからさまに嫌がらなくてもいいじゃないか。

ムッとした阿部の思考はやはり、周りと大きくずれていた。

阿部は眉を寄せて高瀬を見やると、彼は視線に耐え切れず顔を赤くして恐る恐るといった様子で阿部を視界に入れた。

『顔が赤くなる』それが阿部にはいまいちわからないのだが、今から自分のする事を思うと、そんなことはまぁいいと思え、考えるのをやめてしまう。

『うー…』

よく考えればムッとしたところで仕方ないのだ、こんなスカートなんて履いて自分でも気持ちが悪いと思う。
早く開放されるためにも山ノ井に言われた言葉を言わなくては、はぁとため息に近い息を吐いた。

「…」

そっぽを向いていたはずの彼がゆっくりとだが阿部を視界に捕らえ始める。
何をするのだろうと興味でも沸いたのだろうか、それともさっきの溜息が気になったのか、しかし視線はいつまでも泳いでいる。
なんとなくうちの投手を連想させて仄かにイラだったのは秘密にしておこうと飲み込んだ。


それにしても、彼の視線の送り方が気になる。
上から下まで見ないようにしながら見ているのだ。

矛盾を言っているように思うだろうが、視線をはずしては盗み見るそんな感じで本当に「見ないように見ている」と、それは阿部の見たまま、感じたままでしか表現しようがなかった。

「…準太さん」
「あ、え」

もういちど息を吐く。
もう今後使うことなんて無いんじゃないか、そう思う言葉を頭の中で何度もリピートした。
故意ではない、余りに恥ずかしくて勝手に反芻されるのだ。

いざ言うとなると余りの恥ずかしさに阿部の頬は赤く染まってぐっと唇を噛み締める。

「準太さん…の」

こんな格好をしているという情けなさにじわりと涙がにじむようだった。

「え、えっち…」
「……え!?」

やっとの思いで搾り出した声は余りに小さい。
しかしはっきりと聞こえたらしい高瀬は心臓が飛び跳ねるくらいに衝撃を受けた。

うるうるとした目と仄かに赤くなった頬、そこいらの女の子よりも随分と可愛らしい、本気でそう思う。

「……。」
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