series ToseixA(Dear)

□無理矢理サイクル
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本格的に逃げ場を失い、既に公開されたこの格好をもう一度必死で隠すような意味の無いことはしない。
と、阿部はもう自棄になって少し肩を落としつつもその場にピッと立っていた。

「隆也かわいいっ!」
「目も腐ってんの?」
「も!?」

仲沢がいつものように駆け寄り、しっぽを引きちぎれんばかりにぶんぶん振り回す飼い犬よろしく阿部の周りをぐるぐる回った。
同じ年だというのに弟のようだ、実の弟よりも『らしい』という認識はずっと変わらない。
満面の笑みで擦り寄ってくる彼を見るたびいつもそう思う。
可愛いと思うけれど身長と図体は全然弟らしさがなく、たまに殴ってやりたくなった。

『でかくなったのはこいつのせいじゃないけどな…』

わかっている分、なんだかくやしいのだけど。

「下どうなってんの?」
「あ、普通に…」
「ぎゃぁっ!!」

興味心身で圭輔さんが疑問点を口にしながら近づいてくる。

それに応えようと島崎が口を開く其の前に、スカートの裾が割と勢い良く捲くれあがった。
隠すために慌てて抑えてしまった自分がなんとなく嫌だが、仕方が無いと思いたい。

「な、ななな…」
「なーんだ、ちゃんと男物かー」
「少し捲ると見えるんだよな、…なぁ、隆也やっぱり女も…」
「履きませんっ!」

年の差が年の差じゃなかったら二人ともぶん殴っているところだ。
しかもグーで、思いっきり。

阿部の手の平は硬く握られ、怒りのせいか震えている。
これ以上はまずいと判断したのか二人してぐっと口を噤んだ。
ソレを見てまぁいいかと溜息を吐く阿部は、それにしても、と仲沢に目を向ける。
スカート捲りに動揺したのかピタリと動きを止めていた彼は、先程からずっとスカートの裾を凝視しているのだ。

「なに?」
「え、や、なんでもないっ」

慌てて首を振る利央を訝しげに見つめるが、顔をほのかに赤く染めながらヘラヘラと笑って明らかに誤魔化しているように見えた。
ただそう深く追求することでもないと思い、何より早く着替えたいという気持ちから島崎の居るであろう方向へ目を向ける。

其のときチラリと見えた黒髪に、そういえばまったくあの人が寄ってこないなと一瞬通り過ぎてしまった視線を戻した。

「…あ」

カッチリ合った視線に、顔を真っ赤に染めた高瀬が小さく声を上げる。
見ていたのだろうか、と阿部は随分驚いた。
てっきり気色悪いから近づいてこないのではと、『自分だったら』を前提に彼の行動を考えていたせいでそんな事を思っていた。

「……」

なんだかぼんやりとした視線が何と無く生々しく、又同じように理由もわからずなんとなく恐ろしくて無意識に一歩下がる。
真後ろに居た河合に打つかって驚いたが、彼は大して気に留めていないようで、それどころか肩を支えてくれた。

なんだか女性に対する接し方のようでくすぐったいと阿部は仄かに照れる。

「隆也君」

不意に山ノ井が阿部に声をかけられた。
彼はなにが面白いのか、にんまりといつもの何倍かの笑顔を向け、耳を貸せと手招きをする。

阿部は首をかしげたが、決して疑うことなく耳を澄ませた。
手の平で壁を作りそっと話しかける山ノ井の吐く息がくすぐったいのか、少し方をすくめる。

「準太、様子おかしいからさ」
「あ、はい…」

小さな声でボソボソと話すものの、それほど内緒話といった様子ではないようで、おそらく周りに居る人達には所々ながら聞こえているのではないだろうか。

そんな会話の中、高瀬についてなんだか様子が可笑しいと阿部が先程からずっと思っていたことと同じ事を言われて途端に興味がわく。
阿部には、「ちょっと変だな」位にしかわからない事でも、古い付き合いである彼らには気づくことがあったのだろう、そんな期待をして耳を傾け続ける。

「―――って言ってみてよ」
「……え!?」

途中、言ってみてといわれた重要な部分だけ本当に、辛うじて聞こえるほどの小さな声で話される。
これは周りがよっぽど耳がよくなければ聞こえないだろう、油断していたらまったく聞こえなかったと思う。

「…でも」
「大丈夫だって、あと言ったら1枚写真取ったあと着替えていいから」
「!しゃ、写真!?」

大きい声を出してしまって、なんだかいけない気持ちになり口を押さえた。
良く考えると別に図書館ではないのだから別にかまわないだろうが、内緒話をしていたせいか変な罪悪感がある。

「写真なんて聞いてな…」
「え?撮るよ、当たり前だろ」

其の当たり前は何処から生まれたんだと、はっきり言ってやりたいが唐突のことに頭が文句で一杯になり阿部からは蚊が鳴くほどの声も出なかった。
困惑する彼に山ノ井は大丈夫だと肩を叩く。

「いっぱい撮りたいところを1枚で我慢するからさ」
「そんな…」

はっきり言って撮られたくないのだけど、と言いたいが確実に主導権は彼らにある。
河合は助ける様子も無いし、仲沢は当てにならない事を阿部は良く知っていた。
迷った末、何枚も撮られるより1枚でスッパリ終わらせて着替えられるほうがいいに決まっているという結論にたどり着く。
だったら恥ずかしい台詞の一つや二つどうってことないと、山ノ井に向けて交渉成立を知らせるために頷いた。
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