series ToseixA(Dear)

□無理矢理サイクル
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「な、なん…」
「おぉ、似合う」
「似合うわけ無いでしょう!?何ですかこれ!!」

気がついたときには、というのはおかしいだろうか。
引きずり込まれた後押し倒され、何をされるのだろうかと身構えるまもなく身包みを引っぺがされた。

抵抗もむなしくすっかり着替えさせられた阿部は押さえつける腕が離れたところで、もう確実に遅いだろうが逃げ出すことに成功する。

ドッとタンスにぶつかって体を隠すように身を屈め、急遽警戒態勢を島崎へ向けて取った。
尻餅をつき壁に背をつけて睨み付ける阿部に、島崎もどこか顔を赤くしながらそれでも笑顔で手を振り、警戒を解けと合図をする。

「あ、あとその体制見えるよ」
「!!」

ひざを立てて両腕で囲い、体を見えなくする術はどうやら欠点だらけだったようだ。
其の言葉に慌てて足を崩し隠したが、良く考えれば着替えさせられる時既に見られている。
ただ、服を剥かれた状態で見られるのと今の格好で見られるのは随分と違うもので、何故かはわからないがやけに恥ずかしいと思った。

男物の下着だけは何とか死守したのが不幸中の幸いだろうか、
否、不幸には変わりないだろう。

「…」

此方が動けないことを良いことに着てきた服を回収され、きちんと目の前で畳む彼は、にっこりとした笑顔を崩さず鼻歌まで歌い始めた。
此方が冷静にならなければ丸め込まれるばかりだと深呼吸をし、自分の現状を振り返る。

半そでの白いシャツ、スカート、紺色の長い靴下、
スカートの色が桐青生徒である彼らの着ていた制服と類似していることから恐らく桐青の制服だろうか。
しかし何故いきなりこんな格好を、という疑問が当然ながら浮かび上がり、チラリと服をたたみ終えたのか部屋の隅に置いている島崎を見た。

「ん?」
「…」

顔を上げるとすぐに目が合い、見ていただろう事を知ると顔が赤くなってしまう。
何故、という先程まで聞こうと思っていた言葉が出ずに視線をそらすと、彼の笑い声が聞こえた。

ムッとして睨み付ける様にもう一度見やる。
そんなものは諸共せず彼は変わらない表情で居続け、驚くべきことを口にした。

「もう少しで皆来るよ、そしたら着替えていいからさ。」
「……え?」

―ピンポーン―

タイミングは最高だった。
しかし阿部にとっては最低である。
皮肉にも小気味よくなったチャイムと同時に玄関を開く音がした。
待てと言う間もないほどに早く開いたであろうドアに、チャイムの意味がまるで無いと阿部が冷静になって考えるのはもう少し後だ。
ソレよりも慌てて隠れる場所を探すために周りを見渡す。

「ちょ、ちょっと待っ…」
「慎吾ー、どう?」
「いっ…」

探すもなにも周囲に身を隠すようなものはない、島崎の部屋は極端に物が少ないのだから。
しかも考える暇もない、焦る阿部は丁度目に入った島崎の後ろに衝動的に隠れた。

「おっと」

引っ張って引き寄せると簡単に寄ってくる。
たぶん阿部の行動を見抜いていたのだろう。
そのままその場に島崎を座らせ、体を小さくしてなるべく前から見えないように配慮する。

とにかく、完璧とは言えないまでもとりあえず身を隠すことには成功し、思い切り彼のシャツをわしづかんだ。
皺になるだろうとも思ったが、その倍は自分が哀れなのでまぁいいかと只管体を隠し、彼の肩口から今開くだろう扉をのぞく。

「そんなに隠れなくても」
「…」
「いたたたっ」

すっかり人事な言葉にぎゅーっと背中の骨と骨の間を指圧してやると彼は痛みに悲鳴をあげる。
いい気味だと思った。
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