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□隠された満月
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ファミレスの外へ出て行くとわかっていたことだが外は暗かった。
何時に出会って何時間一緒に居たのだろう、昼に出会ったときよりもほんのりと冷たさを感じる風が吹いている。

「今日は空が良く見えないですね」
「そうだな、曇ってんのかも」

ゆっくり歩いていた二人は立ち止まり、彼の言葉に空を見上げる。
上を見れば星一つ見えないような、雲の多いソレ。

今出てきたばかりのファミレスや、そこら辺に建つ街頭から漏れる明かりのせいもあるかもしれないが、チラとも見えない空の光に曇っているのだろうと判断した。

「朝は晴れてたのに…」

阿部は目を細め残念そうにつぶやいた。
空ではなく、阿部を見つめながら彼の視界に入るように努力し、ひょいと顔を除かせる。
もう少しで終わってしまう今この時に、少しでもこちらを見てほしいと思った。

「空になんか用だったわけ?」
「いえ、ただ今日満月なんですよね」

空を見上げるのを止め、阿部の視線はこちらへ移る。
目論見を成功させ、満足そうに笑みを浮かべて茶化すように口を開いた。

「そういうの気にしてんだ?意外かも」
「あ…、ち、ちがいますっ、昨日偶々見て気になってただけですっ!」

街頭の明かりで真っ赤になった阿部の顔が露わになる。
意外だったのは本当、恥ずかしいと思わせたかったのも計画通りで思わず噴出した。

「本当ですってば!!」

噛み付きそうな勢いだが如何せん迫力に欠けるのは、きっと顔が真っ赤のせいだろう。
ぐっと握られた拳が目に入るが少しも気にならない。

「別にムキにならなくてもいいのに」

煽ったのは自分だけれど、別に変なことではないと思う。
でも気持ちは分からなくも無い、ロマンチックな考えの持ち主なんていわれた日には死んでしまいたいくらい恥ずかしいだろう。

「ムキになんて…、それに本当、普段から気にしてる訳じゃないですから。」
「はいはい」

そんなムッとした表情で言われても説得力なんて無いわけで、向こうを向いてしまった彼を撫でる為に手を伸ばす。
払いのけられるかな、と思ったがそんなことは無くそれどころかこちらに身を寄せるように近づいた。

「…、そりゃ準さんには関係ないと思いますけど」

そんな態度を取りながら口から出るのは強気な声で、それが可笑しくて可愛らしい。
素直じゃない、分かっていたがこんなにも天邪鬼な事を口にしたことは今までを知る限り無いのではないだろうか。

暗い道の真ん中、見る限り誰も居ないがいつ誰が来るかもわからない今だからこそこんな態度を取っているのか

「関係なくないかも…」
「え?」

隆也がこちらを向く、不思議そうに見てくる。
関係ないなんていわれたが関係ないわけじゃない、二人きりで居る最中に空を見上げる彼を見たときモヤモヤとしたものを感じていた。

そんな独占欲の塊を露わにして関係ないという言葉を笑ってかわせなかった。

「月の事気にしてる余裕ないから」
「…?」

口が勝手に動く、腕を隆也の肩に回し引き寄せる。

焦る声が聞こえたが、無視をして強く抱きしめた。

「俺は隆也のことでいっぱいいっぱいだから、月に目移りしてる暇ないからさ」

触れている部分がどんどん熱を持っていく
隆也の顔を確かめるために覗くと真っ赤になった顔が其処にあった。

意識していったわけではない、ただ口から出てしまっただけの言葉を自分の中で反芻する。

「…って、なんか恥かしい事いった気がする…」

しまった、そう思って口を手で覆った。
冷静に考えてみると恥ずかしくて仕方が無い、隆也の顔が赤くなるのにしたがって変に意識すればするほど顔が熱くなっていく。

「…う…」
「わ、わるい」
「いえ…」

お互い真っ赤になった顔を見合わせることが出来ず、視線をそらしてそっぽを向いた。
帰りまでそんな態度だともったいないから、何気に指を絡ませながらそっと盗み見る。
彼は振り払う様子も無く、それどころかぎゅっと握り返してきてどうしても顔がほころんだ。

下を向きっぱなしの隆也は、今、月を見ていない。
頭の中はきっと俺のことでいっぱいで、それを考えると嬉しくて仕方が無かった。

つないだ手が離れるのが嫌で、人気の無い丁度街頭の当たらないような道の真ん中、
どちらからでもなく歩を止めてドクドクとうるさい心臓が収まるまで、
その場に二人沈黙を守って立っていた。
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