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□その向こう側
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朝の日差しがカーテンから高瀬の目を照らし、瞼の裏でオレンジに光る。
迷惑そうに眉を寄せ、何時もならそのまま光の届かないところへと潜り込む高瀬が、今日の夢見のせいでしまったという顔をしながら体を起して身悶えた。

「・・・どんな夢だっ」

多少愚痴り気味に頭を抱える彼の其の表情は、複雑な表情を浮かべながらも嬉しそうに歪む、文句と言うほどの文句ではないが、そういいながら目を細めて先ほどまでの夢を思い返す。

『高瀬さんのことが・・・』

あの続きはなんだと言うのだろう、思惑通りなら嬉しい事は無い。

「・・・って、違う。」

高瀬はそう思って揺れる頭を振る。

「言わせてどうする・・・。」

此方から言わなければと思うのはそれほど好きだからなのだろうか、
確かに彼が愛していると囁いてくれたらこんなに嬉しい事はないが、やはり愛してると伝えられるより伝えてしっかり抱きしめたい。

高瀬はただ純粋な思いを持ってして掌を強く握り締めた。

あれから窓を見ると彼を思い出す。
あの時、同じベッドで眠り、男同士なのも気にせずただ無意識に温もりを求め引き合い、抱き合っていたあの瞬間。
今の気持ちのまま接していたらと思うと恐怖心すら覚えるほど日が経つにつれ彼への心を自覚した。

今でも稀に妄想を繰り返す。
思春期らしいたった一人を想っての思惑、ただ相手が彼だと言うだけで罪悪感がふつふつと芽生えるのは汚してしまっていると自覚しているからだろうか。
弟のようだと思い、可愛がっていたあの気持ちはどこへ言ってしまったのだろう。

高瀬はふぅと息をつきぼんやりとする頭に活を入れようと顔を洗う事にした。

ジャージのまま自室から出て少し行った、シャワー室近くの洗面台で顔を洗う。
部屋に風呂だってついているのだが、わざわざ此処まで来たのはもんもんとした空気が篭っていそうなあの部屋から少しでていたかったからだ。

「…はぁ」
「なに溜め息ついてんの?」
「へ?」

そんな自覚はなかったがどうやら溜め息が出ていたらしい、ソレを指摘された事に驚いたが、さらに人が居る事に驚いた。
この時間のこの場所で人に会うことはあまりない、ふっと後ろを振り返り、水に濡れた視界を向けた。
タオルでポタポタと垂れる水滴を押さえ、見辛い視界から水分を除く為に顔を押し当てる。

しかしこの声は余りに聞き覚えが有り、正直高瀬には見ずとも彼が誰だかわかっていた。
タオルに埋めたその顔は彼なりにやった咄嗟の抵抗であり、そんな事をしてしまうくらい目の前に居るだろう彼に接し方がわからないでいる。

『もしかしたら』

これは予感、決定的なものがまったくないが「もしも」を予感させる。
いいモノではない、高瀬にとって悪いものだ。

「準太」

顔を上げる。
そこには高瀬の予想通りの彼が寝起きなのか少し気だるそうに立っていて、心の中で『やっぱり慎吾さんだ』とまるで毒づくように思う。

島崎が普段と変わらぬ笑顔で高瀬の名を呼び、意識的にそらしていた目を仕方なく其方へ向けた。

「なんですか、慎吾さん」

予感は決定打に欠けていた。
それでも何となく次に来る言葉がわかって、それでも彼の口から聞くまではと知らない振りで聞き返す。
自分の思い過ごしのままソレはソレと終らせておきたかった。
高瀬の考えている通りの言葉が出れば、それは決定打となるだろう。
島崎はどこかピリッとした空気を含んだ彼の雰囲気に一切触れる様子無く、声を掛けてきたときから幾分も変わらない表情で口を開いた。

「阿部君だっけ?あの子次いつくるの?」

声が口から出終わった後の少しだけ揺れた瞳と、小さく、彼らしくなく弧を描いた唇。
高瀬が目を細める。

『あぁ、決定打だ…』

予感が当たってしまったのだと溜め息が出そうで、ソレを食い縛って止めた。
彼の心臓が騒がしいほどに音を立てるが頭の中は妙に冷静で、崩した表情をすぐに普段と変わらないものにしてみせる。

動揺で不自然に開いた間を知りながら、真っ白の頭の中何食わぬ顔でサラリと「さぁ?」とだけかえした。
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